最終話 決着
「うおおおおおっ!!」
「がぁああああっ!?」
顔面と手首を万力の如き握力で握りしめられたオウガは悲鳴を上げ、骨が軋む音が響く。このままでは頭と手首を潰されると思ったオウガは逃げようとするが、そんな彼に対してコウは決して力を緩めない。
押し倒された状態から逆に身体を起き上げ、遂にはオウガを壁際に逆に追い詰める。やがてオウガの掴まれた右手首から鈍い音が鳴り響き、オウガは絶叫を上げた。
「ぎゃああああっ!?」
「うるせえっ!!」
「ぐはぁっ!?」
右手が折れたオウガに対してコウは手を離すと、顔面に目掛けて頭突きを繰り出す。オウガは鼻血を噴き出しながら後ろに倒れ込み、そんな彼にコウは渾身の一撃を繰り出す。
「うおおおっ!!」
「ひいいっ!?」
教会内に轟音が鳴り響き、建物の壁が崩れ落ちる。そして残されたのは頭を抱えて縮こまるオウガと、そんな彼の頭上に拳を突き出した状態のコウだけが残っていた。コウは顔面を殴る前にオウガは恐怖のあまりに身体を伏せて最悪の事態を免れたが、そんな彼をコウは見下ろす。
「……お前の負けだ」
「あ、ああっ……」
先ほどまでの気迫は完全に消え去り、まるで怯えた子供のようにオウガは震えて動く事ができなかった。そんな彼を見てコウはこれ以上の戦闘は無意味だと判断し、隠れているスラミンを呼び寄せる。
「スラミン、行くぞ」
「ぷるんっ!!」
スラミンは鞄を頭に乗せた状態でコウの元に跳び跳ね、そんな彼を見てコウは笑みを浮かべる。その一方でオウガの方は茫然自失の状態で座り込み、もう戦う気力も残っていなかった。
鞄を抱えたコウはスラミンを中に入れると、最後にオウガへ振り返った。既にオウガは虚ろな瞳で虚空を眺め続け、二度の敗北によって彼の心は完全に折れてしまった。もうオウガが自分の前に現れる事はないと確信し、彼を置いてコウは教会を出る。
「二度と俺の前に現れるなよ」
「…………」
念のためにコウは一言だけ言い残すと、オウガはそんな彼に一瞬だけ視線を向けたが、すぐに膝を抱えて顔を伏せる。それがコウが最後に見たオウガの姿であり、彼は教会を抜け出すとそこには警備兵と共に待ち構えるネココ達の姿があった。
「あ、兄ちゃん!!良かった、無事だったんだな!!」
「わっ!?す、凄い怪我……大丈夫!?」
「オウガにやられたのですか?」
「皆……どうしてここに?」
先に逃がしたはずのハルナ達がここに居る事にコウは驚くが、すぐに警備兵が駆けつけて彼に何があったのかを問い質す。
「君、大丈夫か!?おい、早く治療してやれ!!」
「我々は彼女達からこの場所にオウガがいると聞いてやってきたんだが……」
「可哀想に……この怪我は奴にやられたのか?」
「いや、それよりも奴はここにいるのか!?」
警備兵はどうやらハルナ達に連れ出されたらしく、彼等はオウガを捕まえるために来たのだと知るとコウは教会内を指差す。
「オウガはあの中です。まだいると思います」
「何!?よ、よし!!突入だ!!」
「絶対に逃がすな!!」
「増援を呼べ!!」
警備兵は教会内にオウガが居るとしってすぐに駆け込み、残されたコウはため息を破棄ながら座り込む。流石に疲労と怪我のせいで歩く体力も残っておらず、すぐにハルナが治療を施す。
「待っててね!!すぐに私の魔法で治してあげるから!!」
「兄ちゃん、生きてるって事はオウガに勝ったんだな!?」
「ああ、勝ったよ」
「あのオウガに……!?」
コウがオウガに勝利した事を告げるとリンは衝撃を受けた表情を浮かべ、彼女でさえもオウガを倒す事はできない猛者だった。それを自分よりも年下でしかも人間の少年が倒した事に驚きを隠せない。
イチノで遭遇した時のコウはリンから見れば人間の中では腕力が強い少年という印象だったが、現在の彼はリンに並ぶどころかそれ以上の力を持つ存在になっていた。ほんの数か月の間に驚異的な速度で成長を果たすコウにリンは戦慄する。
(信じられない、彼があの時の子供だなんて……まさか、彼も勇者なのでは!?)
人間の中でこれほどの力を持つ者は限られており、噂に聞く勇者にも劣らぬ成長力を発揮するコウを見てリンは彼がただの人間ではないのかと考える。しかし、コウ自身がもしもリンの考えを知ったら必ず否定するだろう。
コウはあくまでも凡人であり、ここまでの力を身に付けたのは彼の努力と星水による恩恵、そして普通の人間よりも悪運が強い事だった。度重なる命の危機を乗り越える事にコウは肉体的にも精神的にも成長し、そして勇者ではない人間でありながら勇者に迫る成長力を身に付けた。
――後に彼は「英雄」と呼ばれる存在になるのだが、この時点で彼が英雄になる器だと知る人間は誰一人としていなかった。
※これで書きたい事は全て書き切りました。ここまでお読みくださりありがとうございます。次回作の構想は既にありますが、こちらは来月ぐらいに投稿します。
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