第102話 誘拐
「そういえばリンさんは何処にいるの?またはぐれたの?」
「う、ううん……実は昨日からリンが戻ってこないの。だから私、ずっと探してたんだけどさっきの人たちに捕まって……」
「えっ!?」
コウの予想に反してハルナからはぐれていたのはリンである事が判明し、彼女によると昨日からリンと別れて未だに戻ってこないらしい。いつもの彼女ならばハルナから離れる事は有り得ないのだが、いくら探しても見つからなかったという。
宿泊している宿屋にもリンは戻ってきた様子はなく、昨日からハルナもずっとリンを探し続けているが未だに見つからない。疲れて路地裏を彷徨っている時に先ほどの盗賊三人に捕まった所をコウに助けられたらしい。
「コウ君!!お願い、一緒にリンを探して!!手伝ってくれたらお礼はするから!!」
「それはいいけど、心当たりは本当にないの?」
「うん……昨日、リンが寄りそうなお店を探し回って見たけど全然見つからないの」
「それはまずいな……警備兵の人に話してみた?」
「えっと……前に悪い警備兵の人に大変な目に遭ったでしょ?だから相談しづらくて……」
人が消えたのならば真っ先に相談するべき相手は警備兵だが、ハルナはイチノで悪党と組んでいた警備兵に襲われた事で警戒心を抱き、警備兵に頼る事をせずに自分で探していた事が発覚する。
彼女の気持ちも分からなくはないが本来の警備兵は治安を守る存在であるため、コウはハルナの代わりにリンの捜索を警備兵に頼む事にした。
「分かった。それなら俺が警備兵に話してくるからハルナは宿屋に戻って休みなよ。あ、そういえばハルナは何処に泊まってるの?」
「えっとね、私は黒猫亭という宿屋で停まってるよ」
「黒猫亭ね、分かった。それなら宿屋の人に俺が後で来る事を伝えてくれる?そうすれば宿屋の人がハルナの部屋まで案内してくれると思うから……」
「分かった。絶対に伝えておくね……でもコウ君、気をつけてね」
ハルナは夜通し探し続けていたので大分疲労が溜まっており、コウは彼女を一旦宿屋に戻す事にした。ハルナから宿の場所を聞いたコウは警備兵に相談した後に彼女の宿屋に向かう事にする――
――警備兵の屯所に赴くとコウはリンという名前のエルフを探している事を伝え、彼女らしき人物の手掛かりを尋ねる。だが、残念ながらこの街の警備兵はリンらしき女性の情報は持ち合わせておらず、とりあえずは捜索する事を約束してくれた。
「分かりました。そのリンという名前のエルフの女性を探せばいいのですね」
「ええ、お願いします」
「エルフの方は目立つので街にいればすぐに情報が届くはずです。どうかご安心ください。黒猫亭に宿泊している友人の方にも安心する様にお伝えください」
「分かりました」
コウは警備兵にリンの特徴を伝え、彼女がエルフである事を話す。どうして探しているのかと尋ねられたとき、彼女の親しい間柄のエルフの友人が困っている事を伝える。
警備兵はリンの捜索を行う事を約束し、もしも情報を掴んだら黒猫亭に宿泊しているハルナに情報を伝えに行く事を約束してくれた。ひとまずはコウも黒猫亭に向かう事にすると、彼は路銀が少なくなっている事を思い出す。
(宿代足りるかな……はあ、明日からどうしよう)
手持ちの路銀は今日の宿代と食事代だけでなくなりそうなため、明日に備えてコウは金を稼ぐ方法を考える。危険区域が近くにあれば魔物を倒して素材を売る方法もあるが、生憎とサンノの周囲は草原が広がっており、魔物は出没しない。
森や山が近くにあれば狩猟に赴いて野生動物を狩る事もできるが、生憎とサンノの近くにはどちらもない。だが、ここで気になったのはハルナの発言だった。
(あれ?そういえばハルナはこの街の近くに暮らすエルフの族長に会いに来たと言ってたけど、このサンノの近くには森なんてないはず……それならエルフは何処で暮らしているんだ?)
コウはサンノの周辺地域の地図を頭の中で思い返し、広大な草原が広がっているだけでエルフがくらせそうな森は存在しないはずだった。だが、確かにハルナはサンノに立ち寄ったのは近くの森に暮らすエルフの部族に会いに来たと言っていた。
(そこら辺の話はどうなっているんだろう?ちょっとハルナに聞いてみようかな……)
そのまま立ち去ろうとしたコウだったが、先ほど話していた警備兵が何かに気付いたようにコウに話しかける。
「あ、待ってください!!貴方の捕まえた盗賊ですが、調べたところ三人とも賞金首だと判明しました」
「えっ……賞金首?」
「あの三人はイチノから脱走した犯罪者だったんですが、どうやってから脱走してこの街にまで逃げていたようです。どうぞ、報酬金を受け取って下さい」
「あ、どうも……」
思いもよらぬ形でコウは警備兵から報酬を受け取り、中身を確認すると十数枚の銀貨が入っていた。まさか金を必要としている時にこんな形でお金を得られるとは思わなかったが、コウはこれでしばらくの間は宿代に困る事はなくなった。
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