第101話 まさかの再会

「君のお陰で本当に助かったよ。できればお礼をしたい所だが……」

「いえ、気にしないでください。それじゃあ、僕はここで……」



逃げるためとはいえ、魔物の群れに襲われた時にコウは運んでいた商品を台無しにした事を思い出してお礼を受け取る事に罪悪感を抱く。商人達と別れを告げると、コウは改めてサンノの街並みを観察する。



(思っていた以上に活気があるな……イチノやニノ以上だ)



サンノの街はこれまでにコウが訪れた街の中で一番人の数が多く、大きな建物が並んでいた。サンノの周辺地域には危険区域が存在しない事もあってこの地に移り住む人間も数多く、そのお陰で他の街よりも大きく発展していた。


街道を移動しながらコウは宿屋を探すと、それらしき建物を発見したので近付いてみる。だが、建物の前に辿り着くと扉に「満員」という張り紙が張り付けられており、どうやら泊まる事はできない様子だった。



(ここは満員なのか。なら他の宿を探さないと……)



満員と張り出されている宿屋を後にしてコウは別の宿を探そうとしたが、何処の宿も同じように扉や看板に満員という張り紙が張り付けられていた。1時間ほど歩き回ってもコウは宿屋を見つけられず、途方に暮れてしまう。



「参ったな……どこの宿屋もいっぱいだよ。人が多いとはいえ、こんな事ってあるのか?」

「ぷるぷるっ」



人気のない路地裏にてコウは疲れた表情を浮かべながら座り込み、この時に彼は鞄の中からスラミンが顔を出す。誰にも見つからないようにコウはスラミンに水筒の水を与えて水分補給させると、疲れた表情を浮かべて空を見上げる。



「このままだと街の中で野宿しないといけなくなりそうだな……はあ、久しぶりに柔らかいベッドで寝たい」

「ぷるるんっ」



落ち込むコウを慰めるようにスラミンは鞄の中から声をかけ、とりあえずは休憩を終えてコウは路地裏から出て行こうとした。だが、彼が出て行く前に路地裏の奥の方で何処かで聞いた事がある声を耳にした。



「は、離して~!!」

「へへっ、今度は逃がさないぞ!!」

「まさかこの街で再会するとはな!!」

「ひひひっ……今日こそはたっぷり可愛がってやる!!」



路地裏の奥から聞こえてきた声にコウは驚き、即座にスラミンを鞄に隠して彼は奥の方へ向かう。路地裏の奥には空き地が存在し、そこには見知った顔が勢揃いしていた。



「もしかして……ハルナ!?」

「えっ!?コ、コウ君!?」

「何だてめえは……あっ!?」

「お、お前は!?」

「あの時に邪魔をしたガキ!?」



悲鳴の主は以前にイチノで出会ったエルフの少女の「ハルナ」だった。しかも彼女を捕まえているのも同じくイチノでハルナを攫おうとした盗賊達だった。



(どうしてこの街にハルナが……それにこいつらまで何でいるんだ!?)



イチノで別れたはずのハルナと悪徳警備兵の手下だった盗賊達がここにいる事にコウは疑問を抱くが、とりあえずはハルナを救うためにコウは硬貨を三枚取り出して右手で構える。



「お前等また性懲りもなく……今度は容赦しないぞ!!」

「ひいいっ!?」

「お、お助けぇっ!?」

「止めてくれぇっ!?」



三人組の盗賊はコウの顔を覚えていたらしく、一目見ただけで恐れを為して逃げ出そうとした。それを見たコウは逃げる前に指弾を繰り出して三人の額に的中させる。



「逃がすかっ!!」

「うぎゃっ!?」

「ぎゃあっ!?」

「あだぁっ!?」



コウの親指で弾かれた硬貨が三人の眉間に的中し、頭部に強い衝撃を受けた盗賊達は倒れ込む。男達が気絶したと判断すると、コウは面倒そうな表情を浮かべて倒れた三人を見下ろす。


まさかこんな場所でイチノで遭遇した盗賊達と遭遇するとは思わなかったが、とりあえずは助けたハルナに事情を尋ねる。



「ハルナ、大丈夫?」

「うぇ〜んっ!!怖かったよ〜!!」

「ちょ、そんなに引っ付くなって……当たってるよ」



ハルナは涙目でコウに抱きつき、その巨乳を彼の胸元に押し付ける。前に出会った時よりも心なしか大きくなっているような気がしたが、ひとまずはコウは彼女を落ち着かせた。



「ハルナ、どうしてサンノに?リンさんはどうしたの?それとなんでこいつらがここに……」

「えっとね、実はこの街の近くにもエルフの部族が暮らす森があるの。そこの族長さんとお母さんは仲良しだったんだけど、その族長さんが病に倒れたからお見舞いのためにここまで来たの」

「エルフの部族?この街の近くにエルフが住んでるの?」

「うん、そうだよ……あっ!?この事は誰にも言っちゃ駄目だってリンに言われたかも!?コウ君、他の人に話さないでね!!」

「ああ、うん……相変わらずだな」



久々のハルナは相変わらずの天然ぶりを発揮した事にコウは苦笑いを浮かべるが、彼女の傍に護衛役のリンがいない事に不思議に思う。

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