第100話 サンノ
――ゴブリンとファングから逃げ延びた馬車はサンノへ向けて全速力で駆け出し、遂に目的地であるサンノへ辿り着く。
「ようやく着いたぞ!!ほら、あそこがサンノだ!!」
「あれが……サンノ?」
コウは馬車から外の様子を確かめると、これまでに訪れたイチノやニノよりも大きな城壁に取り囲まれた街が見えた。サンノは驚くべき事に湖の中心に存在し、大きな橋が掛けられていた。
どうやらサンノは湖の中心に浮かぶ島で作り上げられた街らしく、南側に存在する橋を通らなければ渡る事はできない。南側の端には兵士が駐在しており、馬車が辿り着くと兵士が検問を行う。
「そこの馬車、止まれ!!街を通りたければ通行証を見せろ!!」
「へ、へい……どうもお疲れ様です」
商人の一人が通行証を兵士に提示すると、確認を行った兵士は頷いて馬車を通す。どうやらサンノは通行証がなければ街を出入りできないらしい。
「あの……通行証がないと街の中に入れないんですか?」
「ああ、そうだな。街の中に入る時は通行証を提示しないといけない」
「通行証は兵士から買う事もできるけど、街で販売している方が安いからそっちの方で買った方がお得だよ」
通行証は橋の見張りを行う兵士達から購入するか、街中で販売されている通行証を買わなければならず、通行証を持っていない状態で橋を渡ろうとすると兵士に捕まってしまう。
コウは通行証がなければ街の外に出る事もできない事を知り、少し困ってしまう。実を言えば路銀の方はあまり余裕はなく、今日の宿代分ぐらいしかないために街で金を稼ぐ方法を探さなければならない。
(しまった……外に出て適当に魔物を狩って売り捌こうと思ったけど、通行証がないと外に出れないとなると困るな)
これまでコウは路銀を稼ぐときは危険区域に赴き、魔物の素材を買って売り捌く事で路銀を稼いでいた。しかし、サンノの街の場合は通行証を購入しなければならず、もしも通行証を購入すれば宿代が支払えるかも怪しい。
「あの……この近くに危険区域はありますか?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。サンノの周辺には危険区域はないから魔物に襲われる事は滅多にないよ」
「そ、そうですか……」
商人の言葉にコウは内心落胆し、危険区域が近くにないのであれば今までのように魔物を狩って素材を売り捌く事もできない。そうなると他の方法で路銀を稼ぐしかないのだが、商人の発言に引っかかりを覚える。
「あれ?サンノの近くには危険区域は広がってないんですよね?それなら昨日と今日現れた魔物は何処から来たんですか?」
「さ、さあ……それは俺達も分からないよ」
「でも言われてみれば確かにおかしいよな……ここいらで魔物が現れるなんて聞いた事がないぞ」
サンノの周辺地域には危険区域が存在しないにも関わらず、コウが乗り合わせた商団は二度も魔物の襲撃を受けた。本来であれば魔物は現れるはずがない環境下で二度も魔物に襲われた事にコウは不思議に思い、ただの偶然とは思えなかった。
(あの魔物達、何処からやって来たんだ?魔物は危険区域じゃないと長生きできないはずなのに……)
魔物が危険区域の外に出ない理由は危険区域外では十分な栄養を得られず、やがては弱体化して死を迎えるためである。スライムのようなたくましい生命力を誇る魔物ならば一、二か月程度は危険区域を離れていても平気だが、ゴブリンやファングといった魔物はスライムと違って危険区域を離れると数日程度で限界を迎える。
危険区域内にて縄張り争いに敗れた魔物が逃げ出して外の世界に出てくる事もあるが、先ほど商団を襲った魔物は一種類だけではなく、ゴブリンとファングの二種類の魔物が力を合わせて襲ってきた。この事にコウは引っかかり、どうして本来は敵同士の魔物が力を合わせて襲ってきたのか気にかかる。
(……少し気になるけど、考えても仕方ないかもしれない)
ゴブリンとファングが連携して襲い掛かって来た事は気になるが、今の時点ではいくら考えても答えに辿り着けず、コウは考えるのを辞めた。魔物の事よりも明日の宿代を稼ぐ方を見つけるのが彼にとっては重要だった。
商団の馬車が城門を潜り抜けて街の中に入り込むと、商人達は安心した表情を浮かべて馬車から降りた。コウも彼等と共に降りると、商人の一人が話しかける。
「ふうっ……君のお陰で本当に助かったよ。そうだ、良かったらこのまま僕達の所で用心棒として働かないかい?」
「用心棒?」
「君程の腕前なら通常の倍、いや3倍の値段は払うよ!!」
「3倍……」
コウの実力を目にした商人は彼を用心棒として雇おうとするが、コウは3倍の報酬を支払うと聞いて一瞬悩む。だが、すぐに考え直して断った。
「すいません、俺は王都へ向かう旅の途中なので用心棒として働く事はできません」
「そうか……それなら仕方ないな。僕達は一年先まで王都へ向かう予定はないからね」
サンノを拠点にする商人の用心棒を引き受ける場合、コウは王都へ向かう事はできない事を告げると商人は残念そうな表情を浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます