第99話 ゴブリンとファングの追走

「それ貸して下さい!!」

「うわっ!?」



双眼鏡を男から取り上げたコウは馬車の後方を追尾する魔物達を確認すると、確かにファングの背中にゴブリンが乗り込んだ状態で追いかけていた。本来であればゴブリンとファングは敵同士のはずだが、何故かゴブリンはファングを巧みに乗りこなしていた。


この二体が力を合わせて行動するのはコウも初めて見たが、厄介なのはファングの背中に乗るゴブリンの中にはボーガンを所持している事だった。自分達で作ったのかあるいは人間から奪ったのかは不明だが、ゴブリンはボーガンを馬車に向けて放つ。



「矢を射ってくる!!全員隠れて!!」

「うひぃっ!?」

「ひいいっ!?」



コウの言葉に慌てて商人たちは馬車の中で身を伏せると、ゴブリン達は次々と矢を放つ。それに対して、コウは背中の黒斧を構えるが、狭い馬車内では黒斧は振り回せないので盾代わりにしか使えない。




――ギィイイッ!!



ファングに乗り込んだゴブリン達は馬車を追いかけながら矢を放ち、馬車に次々と矢が突き刺さる。商人と傭兵は馬車に積んでいた木箱に隠れてやり過ごそうとするが、このままではいずれ追いつかれてしまう。



(まずい、このままだと犠牲者が出る。けど、下りて戦うわけにも行かないし……)



全速力で移動する馬車から飛び降りるわけにも行かず、仮に降りたところでファングを乗りこなすゴブリンの群れはコウを無視して馬車を追いかける可能性もある。どうにか馬車に乗った状態で魔物の群れを追い払う方法を考える。


馬車の中を見渡してコウは使えそうな物がないのかを探していると、彼は先ほど馬車の修理の際に入れ替えた壊れた車輪を発見した。車輪を見つけたコウは即座に手を伸ばすと、馬車を追いかける魔物の群れに目掛けて放つ。



「おらぁっ!!」

「ギャアッ!?」

「ギャインッ!?」



一番先頭を走っていたファングの背中に乗るゴブリンに目掛けてコウは車輪を投げつけると、ゴブリンは思いもよらぬ攻撃を受けて吹き飛ぶ。背中からゴブリンが落ちた瞬間にファングは慌てて停止すると、倒れているゴブリンの元へ向かう。



「ギィイッ!?」

「ガアッ!?」



仲間がやられた事で他の魔物も動揺し、それを見たコウは好機だと判断して今度は別の物を探す。幸いにも馬車の中には商品の積荷が積まれており、その中からコウは果物が入った木箱を発見した。



「これ、使わせてもらいます!!」

「な、何を!?」

「それは次の街で売る予定の……ひっ!?」



コウが商品が入った木箱を開けるのを見て商人達は慌てふためくが、そんな彼等の元に再び矢が放たれた。仲間がやられたのを見てファングに乗り込んだゴブリン達が無茶苦茶に矢を放つ。




――ギィイイイッ!!




ゴブリンの群れがボーガンで矢を放って来たのを見てコウは木箱の蓋を盾代わりにしながら様子を確認し、相手の攻撃が強まったのは逆に言えば焦りを抱いている事の証明でもある。


仲間がやられた事でゴブリン達は一見は復讐のために攻撃を仕掛けているように見えるが、実際の所は自分達もやられた仲間のように攻撃を受ける事を恐れているのだ。だからこそコウは敢えて敵の猛攻の中で反撃を繰り出す。



(これが投げやすいな!!)



木箱の中からコウは手ごろな硬さと重さと大きさの果物を見つけ出し、それをゴブリンに目掛けて投げつける。山の中で鍛え上げられたコウの投擲術は百発百中であり、次々とファングに乗り込んだゴブリンに目掛けて投げ飛ばす。



「喰らえっ!!」

「アガァッ!?」

「ギャウッ!?」

「ギャアッ!?」

『ガアッ……!?』



次々とファングに乗り込んだゴブリンの群れがコウの投げ込んだ果物に衝突して転倒し、ゴブリンを乗せていたファング達は慌てて立ち止まる。その様子を確認したコウはファングはゴブリンの事を主人として認識しており、主人がいなくなれば何もできない事を再度確認した。


敵の弱点を見抜いたコウはファングではなく、背中に乗っているゴブリンを集中的に狙う。そして5体程倒した所で相手側もこれ以上の追尾は危険だと判断したのか、一番体格が大きいゴブリンが鳴き声を上げる。



「ギィイイイッ!!」

『ッ……!?』



恐らくは隊長格と思われるゴブリンが鳴き声を上げると、馬車を追跡していた魔物の群れは停止し、そのままコウ達を見送る。それを確認したコウは果物を投げるのを止め、追う事を辞めた魔物の群れを睨みつけた。



(何だったんだあいつら……)



どうにか投擲術で敵の追跡を逃れたコウは馬車の中で安堵すると、商人達は生き延びた事を知って心の底から安堵した。そしてコウに対して二度目のお礼を告げる。



「た、助かった……君のお陰だよ」

「また救って貰ったな……」

「本当にありがとう!!街に着いたらお礼をさせてくれ!!」

「ああ、いや……こっちこそ商品を無駄にしてすいません」

「何を言ってるんだ!!君のお陰で命が助かったんだ、そんな事を気にしないでくれ!!」



コウは商人達に囲まれて感謝の言葉を告げられ、彼等の反応に戸惑いながらも照れくさそうな表情を浮かべた――

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