第103話 因縁の相手
「まさかこんなに貰えるなんてな。あいつら、ただの小悪党じゃなかったのか」
兵士から受け取った報酬を手にしてコウはハルナが泊っているはずの黒猫亭という宿屋に向かう。彼女には宿屋の主人に話を通しておくように伝えたので宿に辿り着けばすぐに彼女の部屋に案内されるはずだが、その前に腹ごしらえをする事にした。
色々とあって時刻は夕方を迎え、もうそろそろ日が暮れる時間帯だった。宿に行く前にコウは食事を済ませようと適当な飯屋を探していると、不意に不穏な気配を感じ取る。
(この感覚は……殺気?)
魔物と戦い続けてきたせいかコウは気配を感知する能力だけではなく、自分に向けてくる殺気を感じ取れるようになった。しかし、ここは魔物が潜む危険区域ではなく、大勢の一般人が暮らす街中である。
(誰だ?何処から見ている?)
殺気を放つ人物を探すためにコウは周囲を見渡すと、人込みの中に紛れて自分に近付こうとする人物を探す。しかし、コウの予想に反して殺気を放つ存在は上から現れた。
「がああっ!!」
「うわっ!?」
頭上から何者かが落ちてきた事に気付いたコウは上を見上げると、そこには大男の姿があった。大男はコウに目掛けて蹴りを繰り出し、それに対して咄嗟にコウは後ろに下がって攻撃を躱す。
唐突に襲い掛かってきた大男に対してコウは焦りを抱きながらも距離を取ると、大男は舌打ちしながらも短剣を取り出す。そしてコウに目掛けて短剣を投擲した。
「ちぃっ!!」
「くっ!?」
短剣を投げつけられたコウは咄嗟に顔を反らして躱すと、それに対して大男はコウに突進する。短剣を交わした際に体勢が崩れたコウに目掛けて大男は右足を繰り出す。
「死ねぇっ!?」
「うぐぅっ!?」
男の繰り出した右足に対してコウは咄嗟に左腕で防ごうとしたが、想像以上の衝撃を受けて身体が後方に吹き飛ぶ。まるで鈍器に殴りつけられたかのように左腕に強い衝撃が走り、恐らくは骨に罅が入った。
(何だ、今の攻撃……まさか!?)
攻撃を受けた際に感じた感触にコウは違和感を抱き、大男の右足に視線を向けた。そして大男の右足が鋼鉄製の義足である事が判明した。
(義足!?それにこの顔……まさかあの時の!?)
コウは大男と向かい合うとその顔を見て思い出す。かつてネココと自分を殺そうとした盗賊であり、初めてコウが魔法を使用して倒した相手である。
この男の名前は「オウガ」彼はコウに右足を燃やされた結果、足を切断して特殊な義足を装着した。オウガは酷く興奮した様子でコウと向き合い、人目を気にせずに彼に襲い掛かった。
「くたばれぇっ!!」
「くっ!?」
「うわぁっ!?」
「な、何だ!?喧嘩か!?」
「は、早く警備兵を!!」
オウガはコウに対して義足を繰り出し、まるで本物の足のように巧みに繰り出す。しかも生身の足と違って金属製の義足は凄まじい破壊力を誇り、まともに受ければ無事では済まない。
「くっ!?この野郎!!」
「ふんっ!!」
義足を躱しながらコウは反撃を繰り出すために右拳を振りかざすが、それに対してオウガは左腕に装着した円盤型の盾を構える。コウの拳は岩石を破壊する程の威力を誇るが、オウガの盾に触れた瞬間に弾かれてしまう。
「うわっ!?」
「無駄だ……この盾は壊せない」
まるで衝撃を跳ね返すかの様にコウの拳は弾き飛ばされ、それを利用してオウガはコウに目掛けて右足で回し蹴りを放つ。体勢を崩された状態では碌に回避も防御も行えず、コウはまともに攻撃を受けて吹き飛ぶ。
「がはぁっ!?」
「がああっ!!」
オウガはコウを蹴り飛ばすと彼は数メートルも吹き飛ばされ、この時に近くの建物の壁に衝突する寸前、鞄が偶然にも背中に回り込む。結果的には鞄の中に入っていたスラミンがクッションの代わりとなってコウは壁に直接に叩きつけられず、地面に倒れ込む。
『ぷるんっ!?』
「ううっ……ごめん、スラミン」
鞄の中に隠れているスラミンに謝罪しながらもコウは起き上がろうとすると、既にオウガはコウに目掛けて迫っていた。相手が子供であろうと容赦はせず、自分の右足を奪った憎き仇に対してオウガは止めの一撃を繰り出そうとした。
「死ねぇえええっ!!」
「っ……!?」
迫りくるオウガに対してコウは咄嗟に鞄の中に手を伸ばし、中に入れていた防具を取り出す。その防具とは森の中で出会ったラナ親子から受け取った代物であり、左腕に装着させる。
オウガはコウの頭を踏み潰そうとしてきたが、それに対してコウは左腕に装着した「闘拳」で受け止めた。金属音が鳴り響き、オウガの繰り出した義足をコウは闘拳で防ぐ。
「なっ!?」
「いってぇえええっ!?」
オウガは自分の義足を防がれた事に驚くが、一方でコウは先の攻撃で負傷した左腕に衝撃が走ったせいで激痛が走り、偶然にもそれが功を奏して彼は無意識に「剛力」を発動させてオウガを押し飛ばす。
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