第91話 形見
「その闘拳はお父さんが使っていたんだよ。前に一度だけ使っている所を見せて貰ったんだけど、すっごく格好良かったよ!!」
「格好いい?」
「ほら、ここの部分に窪みがあるでしょう?ここに魔石を嵌めると効果を発揮するの」
リナの言葉を聞いてコウは闘拳を見ると、確かに魔石が嵌められそうな窪みを確認した。彼女によれば闘拳はこのままの状態ではただの防具にしか過ぎず、魔石を嵌め込んだ時に真の力を発揮できるという。
「この闘拳を装着した後、適性がある魔石を嵌め込めば効果を発揮するの。きっと貴方のような勇敢な戦士なら使いこなせるわ」
「でも、それは大切な物なんじゃ……」
「気にしなくていいわ。確かにこれは夫の形見だけど、これが無くなってもあの人との思い出は消えないわ」
闘拳はリナの夫の唯一の形見ではあったが、彼女は彼との大切な思い出は胸の中にあり、例え形見がなくても彼の事は忘れないと告げた。コウは闘拳を受け取り、ここである事に気付く。
(この闘拳、左腕に嵌め込むのか……)
形を確認すると闘拳は左腕にしか装着できない事が判明し、試しにコウは左腕に装着しようとすると、不思議な事にコウの腕の大きさに合わせて闘拳が縮む。
「うわっ!?ち、小さくなった?」
「その闘拳は装備する人間の大きさに合わせて自動に調節するの」
「まあ、流石に赤ん坊とかは巨人族の人は装着できないけど……」
「わあっ……コウ君、格好いい!!お父さんみたい!!」
「ぷるんっ」
左腕に闘拳を装着したコウを見てルルは目元を輝かせ、コウ自身も闘拳を装備して試しに腕を振り回す。普通の腕手甲とは異なって装着した状態でも自由に動かす事ができた。これならば戦闘以外でも身に付けていたとしても問題はなさそうであり、特に重さの方も負担にはならない。
闘拳を常備しても身体に大きな負担はなさそうな事を確認した後、コウは本当に大切な形見を受け取っていいのかとラナに尋ねようとした。だが、彼女は闘拳を装備したコウを見て懐かしそうな表情を浮かべる。
「懐かしいわ……そういえば夫と出会ったのはコウ君ぐらいの年頃だったわね」
「え?そうなんですか?」
「ええ、私はエルフであの人はダークエルフだったから気軽に会う事はできなかったけど、それでも機会があれば私達は一緒に居たわ」
「この森も実はお父さんとお母さんが密会の場所として利用してたのよ」
「そうだったの!?」
「こ、こら!!それは内緒だって言ったでしょう?」
リナの言葉にルルは驚き、ラナは慌てて娘達の口元を塞ぐ。妙な雰囲気になってしまったが、改めてラナはコウにお礼を告げた。
「ありがとう、コウ君……貴方に出会えて本当に良かったわ」
「いいえ、気にしないでください」
「コウ君、助けてくれて本当にありがとう」
「また会おうね!!絶対だよ!!」
別れの言葉を告げてラナ達はコウの元を立ち去り、残されたコウもスラミンを抱えて森を出る事にした。
「思ったより長居したな……よし、行くか」
「ぷるんっ!!」
思いもよらぬ形で闘拳という新しい武器を手に入れたコウは元気になったスラミンを連れ、旅を再開する事にした。次の目的地は森を抜けた先にある新しい街を目指し、コウは再び森の中を突き進む――
――同時刻、王都の王城では盛大な宴が催されていた。宴が開催された理由は勇者とその仲間達が見事に「火竜」の討伐を果たし、王国の脅威をまた一つ取り除いた事を祝って宴会が行われていた。
※短めですがここまでにしておきます。次回は勇者回です。
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