第87話 手負いの獣
「はあっ、はあっ……くそ、頭痛い」
「ぷるぷるっ♪」
「あ、こらスラミン!!あんまり離れ過ぎるなよ……たくっ、こいつのせいで大変な目に遭った」
「ううっ……」
コウはヒヒを肩に背負いながら森の中を歩き、スラミンが先頭を歩く。彼の感知能力ならば魔物や動物が近付けばすぐに分かるため、彼を頼りに元来た道を引き返しながら周囲の警戒を怠らない。
化物じみた体力を誇るコウだが、魔法を使用した後は頭痛や疲労感に悩まされる。前よりも魔法の規模や使える回数は増したが、それでも赤毛熊との戦闘で予想以上に魔力を消費してしまった。
(ちょっと魔法を使いすぎたな……けど、最後の一撃は本当に凄かったな)
コウは赤毛熊を倒した最後の爆発の威力を思い返し、あれほどの攻撃をしたのは初めてだった。勿論、コウだけの魔力ではあれほどの威力の魔法を繰り出す事ができず、ヒヒが持っていた魔石の効果である事は自覚している。
(魔石を使えば初級魔法でもあれほどの威力が引き出せるのか……でも、二回使っただけで壊れるなんて意外と壊れやすいのか?)
持ち帰った水晶の破片をコウは見つめ、魔石に対して強い興味を抱く。今までは縁がないと思ってあまり気にしていなかったが、赤毛熊を倒した時の事を思い出してコウは今後は魔石を購入するべきか悩む。
(魔石って確か物凄く高かったよな。手持ちの金で買えるかな……)
街に戻った後は魔石を購入するべきか悩んでいると、先頭を歩いていたスラミンが唐突に立ち止まる。彼は不思議そうに周囲を見渡し、何かに気付いたようにコウの周りを飛び跳ねる。
「ぷるんっ!?ぷるぷるっ!!」
「うわっ!?どうしたスラミン!?」
「ぷるぷ〜るっ!!」
スラミンは必死にコウに何かを伝えようとしている様子だが、それを見たコウは只事ではないのは分かるが具体的に彼が何を伝えたいのか分からず、一先ずは近くを見渡す。
見た限りでは周囲に魔物や動物の姿は見えないが、感知能力に優れているスラミンが何かを感じ取ったのは間違いなく、コウはスラミンとヒヒを抱きかかえて近くの大木に身を隠す。
「ここに隠れるぞ、いいな?」
「ぷるんっ」
コウの言葉にスラミンは頷き、二人は大木に背中を預けて身を隠す。しばらくの間は隠れていると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
「ガアアッ……!!」
「っ……!?」
森の奥から現れた存在を確認してコウは目を見開き、姿を現わしたのは先ほどコウが倒したはずの赤毛熊だった。全身が黒焦げと化し、顔面の半分は焼けただれていたが、コウ達を追ってここまで辿り着く。
まさか赤毛熊が生きているとは思わずにコウは焦りを抱くが、流石に先の戦闘の負傷が激しいのか赤毛熊の足取りは重く、身体をふらつかせながら歩いていた。それを見たコウは今なら仕留める好機かと思ったが、先の戦闘で疲労が蓄積されたのは赤毛熊だけではない。
(くそっ、こっちも疲れてるのに……けど、このまま追われるのは厄介だ)
戦闘で疲れているのはコウも同じで未だに魔法を使用した反動による頭痛は収まっていない。しかし、ここで逃げたとしても赤毛熊が追いかけてきた場合、ラナ達と合流する際に彼女達も危険に巻き込んでしまう。
(止めを刺すしかない、か)
コウが油断せずに赤毛熊が死んだ事を確認すればこのような事態には陥らず、今後は魔物との戦闘では相手が死んだ事を確かめてから先に進む事を心の中で決める。コウは背負っていた黒斧を掴み、スラミンに頷く。
「スラミン、あいつを倒すぞ。俺が合図したら水で目潰しできるか?」
「ぷるんっ」
確実に止めを刺すためにコウはスラミンの放水で最初に赤毛熊の視界を奪い、隙を見せた瞬間に黒斧で止めを刺す作戦を立てる。スラミンはコウの提案に頷き、二人は大木の前に赤毛熊が近付くまで待ち伏せを行う。
(手負いとはいえ、あいつは化物だ。絶対に油断するなよ……)
自分自身に言い聞かせるようにコウは心の中で呟き、黒斧を握りしめる力が強くなる。スラミンも緊張した面持ちで彼の頭の上に乗り込み、赤毛熊が大木を横切るのを待つ。
負傷した赤毛熊はコウ達が隠れている大木の近くにまで迫ると、ここで赤毛熊は何かに気付いたように鼻を鳴らす。どうやらコウ達の臭いを辿って追って来たらしく、それに気づいたコウは赤毛熊に隠れている事が気づかれる前に仕掛ける。
「今だっ!!」
「ぷるしゃああっ!!」
「ガウッ!?」
大木から飛び出したコウはスラミンに合図を出すと、スラミンは赤毛熊の顔面に水を浴びせ、一瞬だけ赤毛熊は怯む。その隙を逃さずにコウは黒斧を振りかざし、止めの一撃を喰らわせようとした。
(ここだっ!!)
赤毛熊は四つん這いの体勢で追ってきたので丁度良く頭部が狙いやすい位置に存在し、そこに目掛けてコウは黒斧を振りかざす。だが、黒斧を振り落とすためにコウの背中に衝撃が走った。
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