第82話 魔石のピアス
「ま、待て!!分かった、俺が悪かった!!だから命だけは……!!」
「お前……本当に情けない奴だな」
「ぷるんっ……」
先ほどまでの威勢はどうしたのか、ヒヒはみっともなくコウに対して命乞いを行う。自分の事を下等種族だと散々に馬鹿にしていた癖に自分が危機に陥ると情けなく命乞いを行うヒヒにコウは戦う気も失せてしまう。
「そ、そうだ!!これをやる、人間のお前等はこんな物を大切にしているんだろう!?」
「はっ?」
ヒヒは自分の耳に装着していた赤色の宝石が取り付けられたピアスを外し、それをコウに渡そうと手を伸ばす。しかし、コウは彼の差し出したピアスを見て不思議に思う。
(これ、宝石か?でもなんか不思議な力が感じる……もしかして魔道具か?)
コウは自分の右腕に装着している魔法腕輪に視線を向け、何となくではあるがヒヒが差し出したピアスから同じような雰囲気を感じる。不思議に思ったコウはヒヒに問い質す。
「何だそれ……宝石か?」
「ほ、宝石?違う、これは魔石だ。見た事がないのか!?」
「魔石……そうか、これが魔石か」
コウの言葉にヒヒは驚いた表情を浮かべ、魔石という言葉を聞いてコウは思い出す。魔石とは名前通りに魔力が封じ込められた鉱石を加工して作り出される代物であり、外見は宝石のように美しい。
ヒヒが装着していたのは魔石のピアスらしく、色合い的に火属性の魔力が封じこめられた魔石で間違いない。ここでコウはヒヒが扱った魔法の事を思い出す。
(そういえばこいつ、火属性の魔法を使ってたよな。まさかこのピアスで魔法を強化してたのか?)
エルフの扱う精霊魔法は環境によって威力や効果が変動する事は前にコウも聞いた事があり、彼が実際に出会ったエルフのリンとハルナは精霊魔法を使う時は「風」や「光」がある場所でないと魔法を使えないと言っていた。
例えば風属性の精霊魔法が扱えるリンの場合、彼女は風が流れ込む場所でなければ魔法を使えない。風が通らない密封された空間や水の中などでは彼女は魔法を扱えず、聖属性のハルナの場合は光がある場所でなければ魔法を使えないという。
「お前、もしかしてこのピアスで自分の魔法を強化してたのか?」
「あ、当たり前だ!!こんな大して熱もない場所で魔法が使えるわけがないだろう!!」
「なんだそれ……」
コウの指摘にヒヒは何を言っているだとばかりに言い返し、どうやらエルフといっても環境が適さない場所では精霊魔法も扱えないらしく、ヒヒの場合は魔石を利用して魔法を強化していた事が判明した。
偉そうに振舞っていた割には魔石の力を利用して精霊魔法を駆使してた事を知り、増々にコウはヒヒがどうしようもない男だと思った。
「さ、さっさと受け取れ!!人間は魔石を高価で売買していると聞いたぞ!!お前だってこれが欲しいんだろう!?」
「別にいらないよそんなの……とにかく、お前を捕まえて連れて行くからな」
「や、止めろ!?僕を誰だと思っている、僕はダークエルフの族長になる男だぞ!!無礼な真似をすれば……ふげぇっ!?」
「うるさい!!」
「ぷるんっ……」
往生際が悪く抵抗しようとするヒヒに対してコウは殴って黙らせると、一部始終を見ていたスラミンは呆れた表情を浮かべる。殴りつけられたヒヒは鼻血を噴き出しながら地面に倒れ、身体を痙攣させて動かなくなる。
「あ、しまった……手加減するの忘れてた」
「あ、あががっ……!?」
自分の拳は岩をも砕ける事を忘れていたコウはヒヒを殴った際に力加減を誤り、ヒヒの歯が幾つか折れてしまった。このまま放置すれば死んでしまうかもしれず、仕方なく彼はスラミンに頼む。
「仕方ない奴だな……スラミン、あれを頼む」
「ぷるんっ?」
「ほら、あれだよあれ。いつも俺を治してくれるあれをこいつに頼む」
「ぷるぷるっ」
コウに言われてスラミンは木陰から出てくると、倒れているヒヒの元に向かう。ヒヒの治療はスラミンに任せ、コウは周囲を見渡して自分がどのような道順でここまで辿り着いたのかを思い返す。
(思ったよりかなり離れたな……ちゃんと戻れるといいけど)
ヒヒを捕まえたコウはラナ達の戻れるか心配しながら辺りを見渡していると、彼は近くに流れている川の異変に気付く。何となく水面に視線を向けると、波紋が広がっている事に気付く。
波紋を見てコウは不思議に思い、水面を覗き込むと徐々に波紋が大きくなっていく。まるで巨大な何かが接近しているように波紋が広がり、ここでコウは足音を耳にした。
(何だっ!?)
異変に気付いたコウは咄嗟に黒斧を抜いて身構えると、スラミンもヒヒの身体の上で何かを感知したのか慌ててコウに鳴き声を上げる。
「ぷるぷるぷるっ!!」
「スラミン……何かいるのか?」
スラミンの反応を見てコウは危険を察知し、即座に気絶したヒヒを肩に持ち上げて身を隠せる場所を探す。運がいい事にコウは川の岸辺に大きな岩を発見し、岩陰に隠れて様子を伺う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます