第68話 森の異変
「ほら、とっととアルケ!!止まったらお尻ぺんぺんじゃ済まさないからな!!」
「わ、分かった!!歩くから引っ張るのは辞めてくれ!!」
「あ、兄貴……こいつ、とんでもない馬鹿力っすよ!!」
「ぶひぃっ……おいらでも全然敵わねえ」
コウは三人を持参していた縄で縛ると無理やり引っ張って森の中を歩き、抵抗する事も許さない。盗賊達は三人がかりで逃げようとしてもコウ一人の腕力には敵わず、仕方なく歩いて行く。
(あの娘達のお母さん、無事だと良いけど……)
盗賊三人を連れて歩きながらもコウは先ほどの二人の事を思い出し、彼女達の母親の病が無事に治る事を祈る。両親を幼い頃に失くしているだけにコウも親を失う辛さはよく知っており、彼女達の母親が無事に快復する事を祈るばかりだった。
その一方で捕まった盗賊達はどうにか逃げ出そう考えていたが、三人がかりでも縄を持つコウには敵わず、彼の腕力の凄さに恐怖心を抱く。
『あ、兄貴……こいつ本当に人間なんですか?実は巨人族とかじゃ……』
『馬鹿野郎、どう見ても人間だろうが……だが、この力の強さは普通じゃねえ』
『こいつ、腕輪を装備しているな……きっと、あれは筋力を強化する能力が付与された魔道具だろう』
盗賊達はコウの力の秘密が彼が装着している腕輪だと判断し、そうでもなければ自分達がこんな子供に腕力で負けるはずがないと思い込む。実際の所はコウの装着している腕輪は
『よし、お前等……俺が教えた縄抜けの技術は覚えてるな?』
『へ、へい!!これぐらいの縄なら何とか……』
『えっと……』
『おい、ブヒ!!てめえ、また忘れたのか!!まあいい、チビが縄を解いたらお前の縄を切ってやるから待ってろ。俺が合図をしたら逃げるんだぞ!!』
『へい!!』
小男の渾名は「チビ」というらしく、兄貴分の男は自分が合図を出したら縄抜けの技術で自分達を拘束する縄から抜け出し、急いで逃げ出すように促す。彼は打ち合わせが終わるとコウに振り返って愛想笑いを浮かべた。
「へ、へへっ……旦那、すまねえがちょっともよおしてな。悪いけどここらでしょんべんを……」
「しっ!!」
「えっ?な、なんですかい?」
「どうかしやした?」
「な、何だな?」
コウは話しかけられた途端に口元に人差し指を向け、彼の行為に盗賊達は戸惑うがコウは黒斧に手を伸ばす。コウの行動に盗賊達は驚くが、すぐに彼等も自分達の周囲の異変に気付く。
「囲まれてる……後ろに下がれ」
「な、何だって!?」
「囲まれているって……うひぃっ!?」
「あ、危ない!?」
黒斧をコウが手にした瞬間、周囲の茂みが揺れ動く。やがてチビの足元に石斧が突き刺さり、それを見たブヒは驚いて石斧が投げつけられた方向を見た。
――ギィイイイイイッ!!
何時の間にかコウたちの周囲にゴブリンの群れが取り囲み、その数は10や20どころではなく、100体近くのゴブリンがコウ達を取り囲む。
「ぎゃっ……ぎゃあああああっ!?」
「ま、魔物!?しかもこんな……ひいいいっ!?」
「な、何でこんな所に魔物が!?」
「静かに!!いいから後ろに隠れてろ!!」
ゴブリンの群れに取り囲まれた盗賊達は悲鳴を上げ、そんな彼等を黙らせコウは自分の後ろに隠れるように促す。しかし、魔物を目にした盗賊達は取り乱し、そんな彼等を見て取り囲んでいたゴブリン達は笑みを浮かべる。
森の中に現れたゴブリンの群れはそれぞれが武器を持っており、石斧や棍棒を所持していた。以前にコウが遭遇したゴブリンと比べると小ぶりだが、それでもこれだけの数のゴブリンと遭遇した事はコウも初めてだった。
(この森、ボアだけじゃなくてゴブリンまで住み着いていたのか……!?)
本来であれば危険区域以外で魔物が出現する事は滅多にないはずだが、この森には二種類の魔物が住み着いていた事にコウは驚きを隠せない。しかし、すぐに冷静になって武器を構えた。
「死にたくなかったら俺の傍から離れるな!!」
「じょ、冗談じゃない!!お前等、逃げるぞ!!」
「ひいいっ!?」
「ぶひぃいいっ!?」
「なっ……馬鹿!!戻ってこい!?」
盗賊達はコウが縄を手放したので逃げ出そうとしたが、それをゴブリン達が見逃すはずがなく、コウから離れた彼等に真っ先に襲い掛かる。
「グギィイイッ!!」
『ぎゃあああっ!!』
ゴブリンの群れの中で最も背丈が高いゴブリンが棍棒で盗賊達を指し示すと、他のゴブリンが盗賊達に向かって一斉に襲い掛かり、彼等は捕まってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます