エルフの森編
※連載再開 第64話 二人の少女
「うわぁあああんっ!!だ、誰か助けてぇええっ!?」
「馬鹿、叫んでいる暇があるなら走りなさい!!」
夜の森の中で二人の少女が手を繋ぎながら走り抜けていた。どちらも背中に大きな籠を抱えており、籠の中には三日月のような形をした葉を生やした植物が入っていた。
少女達が夜中に森の中に入ったのは森の中でしか生えない貴重な薬草の採取のためであり、二人が採取したのは「三日月草」と呼ばれる薬草だった。二人は目当ての薬草を採取する事はできたのだが、その途中で彼女達は思いがけない存在に見つかってしまう。
「フゴォオオオッ!!」
「そんな、もう追いついて来たの!?」
「も、もう走れないよ〜!!」
「馬鹿!!止まったら殺されるわよ!!」
少女たちの後方から猪のような鳴き声が響き、戦闘を走っていた女の子はもう片方の女の子の手を掴んで足を止めないように促すが、二人とも走り続けて体力の限界だった。
二人の少女の後を追いかけてくるのは野生の猪よりも一回り程大きく、しかも牙の形が槍の刃先のように尖った巨大猪だった。この猪はただの猪ではなく、本来であればこの地方には生息しない「ボア」と呼ばれる魔獣(獣型の魔物の総称)だった。ボアは森の中を逃げ回る少女たちを標的に定め、執拗に後を追う。
「フゴォオオッ!!」
「ひいいっ!?も、もっと早く走りなさいよ!!」
「も、もう駄目……走れないよ!!リナちゃん、先に逃げて……」
「馬鹿な事を言うんじゃないわよ!!」
リナと呼ばれた黒髪の少女はもう一人の少女を見捨てるつもりはなく、彼女手を握りしめたまま走り続ける。しかし、徐々に距離は詰められていき、リナが手を繋いでいた少女が途中で転んでしまう。
「あうっ!?」
「ルル!?危ない!!」
「フゴォオオオッ!!」
リナと手を繋いでいた金髪の少女の名前はルルというらしく、彼女は転んだのを見て慌ててリナはルルの上に覆いかぶさる。そんな二人の元にボアは接近し、その槍のように鋭い牙で二人を狙う。
「プギィイイイッ!!」
「ひうっ!?」
「わああっ!?」
森の中にボアの鳴き声が響き渡り、お互いに抱き合う形で坐り込んだリナとルルは目を閉じる。しかし、何時まで経っても二人の身体に牙が突き刺さる事はなく、不思議に思った二人は目を開くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「ふぎぎぎっ……!!」
「プガガッ……!?」
「えっ……ええっ!?」
「だ、誰!?」
何時の間にか二人の前には少年が立っており、ボアの鋭い牙を両手で抑え付けていた。状況的に考えて正面から突っ込んできたボアを少年が受け止めたとしか考えられず、力ずくでボアを抑えつけていた。
ボアは野生の猪とは比べ物にならない体格と力を誇るはずだが、少年に牙を掴まれたボアは必死に振り払おうとするが、まるで巨人族にでも取り押さえられたかのようにびくともしない。一方で少年の方はボアの牙を掴む両手に力を込め、力ずくでボアを横転させる。
「おらぁっ!!」
「プギャアアッ!?」
「嘘っ!?」
「す、凄いっ!?」
正面からボアを受け止めただけではなく、腕力でボアを地面に転ばせた少年にリナとルルは驚愕し、一方で少年の方は倒れたボアを見て背中に抱えていた黒色の刃の戦斧を手に取る。
「久々の大物だな……」
「プギャッ!?」
武器を手にした少年を見てボアは危機感を抱き、慌てて立ち上がって逃げようとした。しかし、それを見越した少年はボアの尻尾を掴み、逃げようとするボアを片手で抑え付けた。
「逃がすかぁっ!!」
「フゴォオオッ!?」
「ええええっ!?」
「嘘でしょっ!?」
片手でボアの尻尾を掴んで逃げるのを抑えつけた少年にリナとルルは信じられない表情を浮かべ、捕まったボアも必死に逃げ出そうとするがびくともしない。その間にも少年は片手で戦斧を構え、逃げ出そうとするボアに刃を振りかざす。
「だぁあああっ!!」
「プギャアアアッ――!?」
森の中にボアの悲鳴が響き渡り、戦斧の一撃を受けたボアは血飛沫を舞い上げながら倒れ込む。一撃でボアを仕留めた少年は戦斧にこびりついた血を振り払うと、改めて少女たちに顔を向けた。
「ふうっ……大丈夫?怪我してない?」
「……は、はい」
「た、助けてくれありがとう……」
振り返った少年の顔を見てリナは顔色を青くしながらも頷き、ルルの方は頬を若干赤く染めながらお礼を言う。少年の風貌を見てリナとルルは自分達と大して年齢に差はない事を悟り、緊張感を解いて立ち上がる。
ボアを仕留めた少年は二人が無事だった事を確認すると、改めて自分が倒したボアに視線を向けた。彼は自分の掌を見つめ、一か月前と比べて確実に自分が強くなっている事を自覚する。この少年こそが一か月前に修行の旅に出た「コウ」だった。
※色々と思う所があり、連載を再開します。
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