第63話 凡人として……

「……なあ、コウ。お前に言うまでもないが俺達の先祖に英雄なんて呼ばれるような偉人は誰一人いねえ」

「爺ちゃん?」

「いいから聞け……俺達の家系は代々猟師だ。勇者やら、王族やら、魔法使いやら、そんな大層な肩書を持つ人間なんて一人もいねえ」



アルは倉庫から出ると空を見上げ、そんな彼にコウは不思議に思いながらも背中を見つめる。コウはアルよりも身長は高いが、それでも彼の背中は大きく見えた。



「だけどな、勇者だろうと王族だろうと同じ人間だって事は間違いないんだ。俺達は凡人の家系だ、祖先を遡っても大業を為した人間なんていないかもしれない。だからお前がなっちまえ、俺達の家系の一番目の英雄にな」

「一番目の……英雄?」

「そうだ。血筋なんて関係ねぇ、鳶が鷹を産む事だってあらぁっ!!」



振り返ったアルはコウの背中をしっかりと掴み、満面の笑みを浮かべて彼に告げる。



「凡人だからなんだ!!相手が勇者だからってどうした!!お前ならできる、何しろお前は俺にとって自慢の一人孫だからな!!」

「爺ちゃん……」

「……もう行け、明日に出発するなんてきな臭い事を言うんじゃねえっ!!勇者を越えるっていうならこんな所でもたもたするな!!勇者を越える日までここに戻ってくるんじゃねえぞ!!」

「えっ?」



アルはコウの肩を離すと彼は家の中へと戻り、事前に用意していた荷物をコウに放り込む。どうやらコウが狩猟に出かけている時から既に彼の旅立ちに必要な物を準備していたらしく、荷物を受け取ったコウは唖然とした。



「ほら、もう行け!!途中で挫けて帰ってくるような情けない真似をするんじゃないぞ!!」

「爺ちゃん……」

「行けっ!!」



コウに対してアルは顔を向けず、背中を向けたまま怒鳴りつける。しかし、彼の声が涙声になっている事にコウは気付き、ここで祖父の言う通りにしなければ彼の面子を潰してしまうと考えたコウは頷く。


荷物を背負ったコウは祖父から受け取った戦斧を握りしめ、黙って家の外へ向かう。その様子をスラミンは心配そうな表情を浮かべながらも後に続き、コウは出て行く前に一言だけ告げる。



「爺ちゃん!!俺は爺ちゃんよりでっかい男になって帰ってくるよ!!」

「へっ……その言葉、忘れるんじゃないぞ!!」



アルはコウの最後の言葉に鼻を鳴らし、両目から大粒の涙を流しながら孫を見送った――






――村を離れたコウはスラミンを連れて草原を歩き、次に村に戻る日が来るのはいつになるのかは分からない。だが、それでもコウは振り返らずに歩き続ける。



「お前も一緒にくるのか?」

「ぷるるんっ!!」

「分かった分かった……なら、しっかり付いて来いよ!!」



スラミンもコウの旅に同行するつもりらしく、本来であれば魔物は危険区域外では長くは生きられない。しかし、世界中で新たな危険区域が誕生した事で旅の道中でスラミンを危険区域に連れて行けば彼も共に旅をする事ができる。


相棒と共にコウは勇者ルナを追いかけてコウは王都へ向かう。王都へ向かうには街を転々と渡る必要があり、最初の目的地はイチノだった。



「行くぞ、スラミン!!」

「ぷる~んっ!!」



コウはスラミンと共に草原を駆け抜け、イチノへ向けて一目散に駆け出した――

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