第62話 祖父からの贈り物

――ボアを仕留めたコウは村に戻ると、真っ先に彼は自分の家に戻った。アルに明日に旅に出る事を伝えようと彼は家の中に入ると、何故かアルの姿はなかった。



「あれ?爺ちゃん、いないの?」

「ぷるるんっ」

「スラミン、爺ちゃんは何処に行った?」



家の中にはスラミンが留守番しており、彼はコウに尋ねられると外へ飛び出す。どうやらアルの元まで案内してくれるらしく、コウはスラミンの後に続くと彼は敷地内の倉庫の前に移動した。



「ぷるぷるっ!!」

「倉庫?この中にいるのか?」

「ぷるんっ」



スラミンは倉庫の中にアルが居る事を伝えると、コウの頭の上に跳び乗る。不思議に思いながらもコウは倉庫の扉を開くと、そこにはアルの姿があった。


アルは倉庫の中で腕を組んだ状態で立ち尽くし、そんな彼を見てコウは疑問を抱くが、アルはコウが戻ってきた事に気付くと彼に口を開く。



「戻ってきたか」

「ただいま……爺ちゃん、こんな所でなにしてんの?」

「……お前に渡す物がある」



コウの質問にアルは答えず、彼は倉庫の奥へ向かう。そんなアルを見てコウはいつもの祖父と雰囲気が違う事に気付き、黙って後に続く。


倉庫の奥に辿り着くとアルは壁際に立てかけていた武器を取り出す。それを見たコウは驚き、アルが取り出したのはだった。



「これをお前に託す」

「爺ちゃん……これは?」

「俺の戦友の形見だ」



アルが手渡した戦斧は全体が漆黒に染まり、刃さえも黒く染まっていた。これまでにコウは何度か倉庫に立ち寄ったが、このような武器は今まで見た事もなかった。



「この武器、何処に隠してたの?」

「地下だ。お前には言ってなかったが、この倉庫には地下室がある。そいつは本当は取り出すつもりはなかったんだがな……旅の餞別代りだ。遠慮なく持っていけ」

「旅って……爺ちゃん、俺が旅に出る事を気付いてたの?」

「ふんっ、当たり前だ!!お前の考える事なんてお見通しだ!!」



コウの言葉にアルは鼻息を荒く鳴らし、彼は前々からコウが近い将来に旅に出る事は予測していた。だからこそアルは倉庫の中に長年隠していた武器を取り出し、手入れしながら倉庫の中で待っていたという。



「その武器の名前は黒斧、俺の親友だった男が扱っていた武器だ」

「黒斧……」

「俺の親友は冒険者だった。家族の反対を押し切って冒険者になるために村を出た……その時に俺は金を貸してな、その事を覚えていたのかあいつは死んだときに俺に武器を渡すように自分の仲間に頼んでたんだよ」

「えっ!?」



アルの親友だった人物は冒険者になった後、この黒斧と呼ばれる武器を手にした。しかし、後に親友は何らかの理由で亡くなってしまい、家族にではなく親友だったアルに黒斧を託した。


どうして家族に渡さなかったのかというと、アルの親友は冒険者になる事を反対していた家族と縁を切って村を飛び出したため、だからこそ自分を手助けしてくれたアルに託したらしい。但し、アル本人は一応は家族に話を伝えようとしたらしいが、武器は結局は受け取ってくれなかったという。



「あいつの家族に返そうとも考えたが、話をしただけで追い返されたよ。自分の子供の形見といっても、あいつが死んだのは冒険者なんて夢を見たせいだからそんな武器なんて見たくもないと怒鳴り散らされたよ」

「そんな……」

「結局、こいつを俺は倉庫の地下に保管するしかなかった。俺はただの猟師だからな、こんな馬鹿でかい武器なんて使う必要がなかった。それにこの武器だって俺みたいな爺に使ってもらうよりも、お前の様な若くて力のある奴に使ってもらう方が嬉しいだろうよ」



アルはコウに戦斧を差し出すが、コウはそれを見て困った表情を浮かべた。アルの気持ちは嬉しいが、これまでにコウは戦斧はおろかまともに武器を使った事すらない。



「爺ちゃん、俺は……」

「分かっている。お前は拳で戦う方が得意な事はな……だけどな、旅をする以上は武器を持っておかないと他の奴等に侮られるぞ。いくらお前の拳が鋼鉄のように硬くても、それを見ただけで分かる人間なんて滅多にいねえ。こいつを使うかどうかはお前の自由だが、せめて持っていけ」



旅に出るのであれば自分を守るための武器を所持しているかどうかで危険の難易度が変動する。悪党と遭遇した時、武器を持っている人間とそうでない人間と遭遇した場合、どちらを警戒するのかは子供でも分かる。



「……本当にいいの?爺ちゃんの親友の形見なんでしょ?」

「ああ、構わねえ。どうせお前が持って行かなければそいつはいつまでも倉庫の地下で埃を被る事になる。だったら持って行った方がいいだろう」

「分かった……ありがとう」



コウは祖父の気持ちを無下にする事はできず、戦斧を受け取った。この時にアルは戦斧を軽々と持ち上げるコウを見て驚き、いつの間にか自分なんか当の昔に越えている事に嬉しく思う。

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