第65話 薬草探し

――難なくボアを倒したコウは助けた少女達から色々と話を聞き、お互いの自己紹介とこんな夜遅くにどうして森の中を彷徨っていたのかを尋ねる。



「なるほど、二人は病気のお母さんのために薬草を探してたのか」

「うん……私達、この森でずっと暮らしてるんだけどお母さんが倒れてそれで病気を治すために薬草を探してたんだ」

「この森に生えている薬草は三日月草だけだから、夜の間じゃないと見つかりにくくて……」



コウが助けたリナとルルは姉妹だったらしく、彼女達は母親と共に森の中で暮らしているとコウに語る。二人は病に倒れた母親のために夜遅くに森の中に出向き、三日月草と呼ばれる薬草を探していた事を話す。


どうして二人が日中ではなく夜間に三日月草の採取を試みたのかというと、三日月草は名前の通りに三日月のような葉の形をしており、この葉は月夜の光に照らされると薄く光り輝くらしい。だから日中よりも夜の方が見つかりやすく、二人で森中を歩き回って三日月草を採取してきたらしい。



「あ、見て見て!!あそこが私達の家だよ!!」

「良かった……ここまで来ればもう大丈夫ね」

「え、あそこが家……?」



二人の案内の元でコウは森の中を移動すると、辿り着いたのは大樹だった。最初は二人の示す家が何処にあるのかとコウは周囲を見渡したが、二人が暮らす家はどうやら大樹の内部をくりぬいて作り上げた家らしく、よくよく観察すると大樹には窓や扉が嵌め込まれていた。



「これが……家?」

「えへへ、驚いたでしょ?外から来る人は私達の家を見るといつも驚くんだよね〜」

「一見すると大樹にしか見えないでしょ?だから知らない人がここへ来ても簡単には見つかりにくいの。それに家の周りには魔物や動物が嫌う香りを放つ植物が生えているからここまで追ってくる魔物はいないわ」

「へ、へえっ……」



大樹の周囲には変わった形をした花が生えており、この花の香は人間には感じ取れないが動物や魔物が嫌うらしく、この場所まで魔物や動物が近付く事は有り得ないらしい。


二人は大樹の家に辿り着くと、扉を開いてコウを招いてくれた。中は意外と広く、上の階に病に倒れた母親が眠っているらしく、すぐにリナは薬の調合の準備を行う。



「ルル、あんたの籠の中の薬草も頂戴。私は今から薬を作るから、あんたは綺麗な水を汲んできなさい」

「う、うん!!あ、コウ君はお客さんだからゆっくりしててね!!」

「あ、いや……俺も手伝えることがあったら手伝うけど」



戻って早々にリナとルルは母親の病を治すための準備を始め、リナは硝子製の容器やすり鉢を用意して調合の準備を行う。ルルの方はリナの指示通りに必要な素材を運び出し、そんな二人を見てコウは自分が手伝える事はないのかを問うとリナは首を振った。



「気持ちは有難いけど、今から作る薬は私とリナだけで十分なの。それにコウ君は私達を救ってくれた命の恩人なんだからこれ以上に迷惑はかけられないわ」

「そんな事、気にしなくていいよ。家族が大変な時なんでしょ?俺にできる事なら何でも手伝うよ」

「でも……」

「俺も昔、父さんと母さんを亡くしたからさ……親を心配する気持ちはよく分かるよ」



コウは子供の頃に両親を失い、育ての親だった祖父も失った。だから家族が危機に陥っている人間を黙って見過ごす事はできず、リナは彼の話を聞いて仕方なく指示を出す。



「それならルルの手伝いをしてくれる?あの子、おっちょこちょいの所があるから私の指示した物をちゃんと持ってこれるか不安だから……」

「分かった、水を汲んでくればいいの?」

「ええ、そこに桶があるから持って行って。扉から出て真っ直ぐ言った場所に泉があるから、そこで水を汲んできてね」

「了解」



桶を手にしたコウはリナの指示通りに大樹から出て真っ直ぐに進み、泉がある場所に辿り着く。夜も暗いのでちゃんと辿り着けるかどうか不安だったが、この時に彼は硝子瓶を取り出す。



(仕方ない、これを使うか……)



硝子瓶の中にはが入っており、その光を利用してコウは森の中を進むと、リナが教えてくれた泉と思われる場所に辿り着く。彼は先に向かったはずのルルを探すが、何故か彼女の姿が見えない。



「あれ……ルル?何処にいるんだ?」



コウは先に水汲みに向かったルルの姿が見えない事に不思議に思い、途中で彼女に追い抜いたとも考えにくい。声をかけてみるが返事はなく、仕方ないので先に泉の水を汲もうとコウは近づくと、彼の足元に何かが当たった。



「わっ、なんだ!?」



彼の足にぶつかったのは桶であり、この桶はルルが先ほど持っていた桶で間違いない。彼女が先にこの場所に辿り着いたのは間違いないが、肝心の彼女の姿が見えない事にコウは不安を抱く。


消えた彼女を探すためにコウは周囲を見渡すと、地面に足跡が残っている事に気付く。ルルの足跡かと思ったが数が合わず、恐らくは人間の物と思われる足跡がいくつもあった。

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