第52話 お別れ
「これを飲んで下さい。少しは落ち着きますよ」
「リンさん、ネココは……」
「まずは飲んでください。説明はその後です」
コウはリンに渡された水を飲むと、身体の熱が引いていく感覚を覚える。星水を飲んだ時のように一瞬で怪我や体力が治ったわけではないが、それでも大分落ち着いて話す事ができるようになった。
「ふうっ……」
「落ち着いたようですね。ではどこから話しますか……まず、第一にネココさんは無事です」
「ほ、本当ですか!?」
ネココが無事という言葉を聞いてコウは安堵し、目を覚ましたら半日以上も経過していたので最悪の事態を考えたが、リンはネココの安全を保障してくれた事に安心する。しかし、次の彼女の言葉にコウは呆気に取られた。
「ですが……もう彼女はこの街にはいません」
「えっ……」
「私達が手配した馬車に乗って他の街に逃げました。ひとまずは大丈夫でしょう」
「ほ、他の街って……一人で行かせたのか!?」
コウは信じられない表情を浮かべてリンの肩を掴み、ネココを一人だけ他の街に行かせた事に激しく動揺する。しかし、リンはそんな彼の腕を抑えて説明してくれた。
「私達も最初は止めたのですが、彼女が他の街に行くと言い出して聞かなかったんです。ここに居ては殺されるだけだというので馬車を手配したんです」
「何でそんな……」
「ネココさんからコウさんに伝言を預かっています。一緒に暮らそうと言ってくれてありがとう、だけどあたしが傍に居ると兄ちゃんも危険な目に遭うかもしれないから他の街に向かう……とだけ言われました」
「あいつ……!!」
ネココはコウにこれ以上の迷惑を被る事に負い目を感じ、彼女は自らの意志で街を去った。馬車を手配したのはハルナとリンであるため、他の盗賊に気付かれる事なく彼女は無事に街を脱出できたらしい。
自分を置いて一人で街を抜け出したネココにコウは何とも言えない気持ちを抱き、状況的に考えて彼女が自分を救うためにハルナとリンを探し出して二人に助けを求めたのは間違いない。そうでもなければコウは今頃は路地裏で野垂れ死んでいた可能性もあった。
「ネココ様は街中を駆け巡って私達が宿泊している宿を探し出し、貴方を救うように頼み込んだのです。コウ様の怪我もハルナ様が治療しました」
「怪我?あっ……本当だ。治ってる」
「ハルナ様が目を覚まされましたらお礼を告げて下さい。きっとハルナ様も喜びます」
コウは言われてみて初めて自分の怪我が治っている事に気付き、ハルナがまた回復魔法で自分の怪我を治した事を知った。しかし、怪我が治ったにも関わらずにコウは気だるさを覚え、妙に力が上手く入らない。
「あの……怪我は大丈夫なんですけど、身体に力が上手く入らないのも回復魔法の影響なんですか?」
「いいえ、それは違います。体力が戻っていない原因はこれのせいでしょう」
「……腕輪?」
リンはベッドの傍に設置された机を指差し、その上にはコウの装備品が並べられていた。その中で彼女が指差したのはコウが身に付けていた銀の腕輪だった。
こちらの腕輪は先日のお礼でハルナから受け取った代物であり、この腕輪のお陰でコウは魔法を発動する事ができた。恐らくは魔道具の類だと思われるが、リンによるとコウの体力が戻らない理由は腕輪が関係しているという。
「コウ様、貴方は魔法を覚えましたね。それもごく最近に」
「えっ!?ど、どうして……」
「治療の際に掌を見せてもらいました。前に見かけた時はなかったはずの魔術痕が刻まれていますね」
話の際中にリンはコウの右手を掴み、彼の掌に浮かんだ「炎の紋様」を確認する。魔術痕は魔法を使う人間にしか発現しないため、彼女はコウが魔法を覚えた事を見抜いていた。
「魔術痕を刻んだのはいつからですか?」
「えっと……昨日、いや一昨日かな?」
「なるほど……それでは魔法を始めて発動させたのはいつですか?」
「昨日の昼ですけど……」
リンはコウの話を聞いて頷き、彼女は腕輪を手に取って確認すると、眉をしかめた。コウはリンの反応に不思議に思うと、彼女はため息を吐きながら説明する。
「これは
「魔法腕輪?」
「魔術師が魔法を扱う場合、体内の魔力を魔法に変換させる道具を必要とします。
「じゃあ、この腕輪はやっぱり……」
「魔道具の一種です。まさかハルナ様が露天商で買った代物が魔法腕輪だったとは……」
「えへへ〜……そんなに褒めても何もできないよ〜」
眠っているにも関わらずに都合の良い寝言を呟くハルナを見てコウとリンは苦笑いを浮かべるが、それはともかく彼女が露天商から偶々購入した腕輪の正体が「魔法腕輪」なる存在だと判明した。
※すいません、一話抜かしてました……
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