第51話 火球《ファイアボール》
(まさか……!?)
コウは自分の腕輪に視線を向け、とある事に気付いた。それは初めて魔術痕が掌に浮かんだ時、彼は薪割りを行っていた。薪割りをする時に腕輪を装着していると邪魔になると思って彼は取り外していた。
魔法を発動させようとした時は腕輪を装着していなかった事を思い出したコウは、最後の賭けとして男の足を掴んだ状態で口元を動かす。
「――
「があああああっ!?」
呪文を唱えた瞬間、コウの右腕の腕輪が光り輝き、表面に炎のような紋様が浮き上がった。その直後に彼の掌から炎が生み出され、足を掴まれていた男は悲鳴をあげる。
掌から放たれた炎は男の足に燃え広がり、男は必死にコウの腕を振り払おうとした。しかし、コウは意地でも離さなかった。
「ああああああっ!!」
「いぎゃああっ!?」
「うわっ!?」
「ぷるるんっ!?」
炎は男の足を燃やしていき、あまりの熱と痛みに男は悲鳴を上げて倒れ込む。それを見たコウは男の足を離すと、最後の力を振り絞って立ち上がろうとした。
「ぐぅうっ……!!」
「あ、足が……俺の足がぁっ!?」
焦げ付いた足を抑えながら男は地面を転がり、そんな男に対してコウは立ち上がった。だが、急に身体の力が抜けて膝を崩す。
(何だ、これ……!?)
魔法を使った直後にコウは異様な気だるさを覚え、身体に上手く力が入らない。自分の身に何が起きているのか分からずにコウは倒れそうになるが、そんなコウにスラミンが声をかける。
「ぷるる~んっ!!」
「はあっ、はあっ……うおおっ!!」
「ひいっ!?」
相棒の鳴き声を聞いてコウは意識を再び覚醒させると、情けなく腰を抜かす男を見下ろす。コウは最後の力を振り絞って懐に手を伸ばすと、一枚だけ持っていた銅貨を取り出す。
こちらの銅貨はネココの治療の代金を支払った時にお釣りであり、彼は右手に銅貨を構えると、男の額に目掛けて放つ。
「くたばれ!!」
「ぐはぁっ!?」
指弾を撃ち込まれた男は白目を剥いて倒れ、それを確認したコウは勝利を確信するとその場に倒れた。もう意識は殆ど残っておらず、そんな彼を見てネココとスラミンが慌てて駆けつける。
「お、おい!!兄ちゃん、大丈夫か!?」
「ぷるぷるっ!!」
「うっ……」
ネココに抱き起されたコウは彼女に視線を向け、どうにか彼女を守り切れた事に満足する。何時の間にかネココも身体が動けるまでに回復していたらしく、彼女は涙を流しながらコウに謝罪した。
「ごめんよ兄ちゃん!!あたしのせいでこんな怪我を……」
「気にするなって……さあ、早く行こう」
「行こうって……無茶だよ!?兄ちゃん、死んじまうぞ!!」
「だからってここにはいられないだろ……」
「ぷるぷるっ……」
未だにネココは盗賊に追われる立場であるため、コウはどうにか起き上がって彼女と街を抜け出そうとした。しかし、いくら力を入れようともう彼は指一本動かせない程に疲労していた。
追手が現れる前にコウ達は逃げなければならないが、先の戦闘でコウはまともに動ける状態ではなくなっていた。そんな彼を見てネココは悲し気な表情を浮かべながらも決意する。
「待ってろ兄ちゃん!!すぐに誰か呼んでくるからな!!」
「呼んでくるって……誰を?」
「すぐに戻ってくるから!!だからそこで待ってろよ!!」
「待て、ネココ……うっ!?」
「ぷるんっ!?」
助けを求めるために走り出したネココを見てコウは止めようとしたが、限界が訪れたのか彼は地面に倒れる。もう立ち上がる気力すら残っていないコウはそのまま意識が途絶えた――
――次にコウが目を覚ますと、彼はベッドの上に横たわっていた。驚いたコウは身体を起き上げようとしたが、上手く力が入らない。
「くっ……こ、ここはっ!?」
「う〜ん……むにゃむにゃっ、もう食べられないよう」
「ぷるるるっ……」
聞き覚えのある声を耳にしたコウは振り返ると、そこには自分の身体の上で鼻提灯を作りながら眠るスラミンと、何故か数日前に別れたはずのハルナの姿があった。彼女は涎を垂らしながらベッドに寝そべり、それを見たコウは混乱する。
どうやらコウは街の宿屋で眠っていたらしく、外を見ると夜明けを迎えていた。つまりコウは最低でも半日以上は眠り続けた事を意味しており、彼はネココの姿を探す。
「ネココは……ネココは何処に?」
「彼女はもう居ませんよ」
「えっ!?」
またもや聞き覚えのある声を耳にして振り返ると、そこには水桶を抱えたリンが部屋の中に入ってくる光景が視界に映し出された。コウはリンの言葉を聞いて動揺し、一方で彼女はコウの元に赴いて額に触れる。
「大分熱は下がりましたね。意識もはっきりとしているようですし……凄い回復力ですね」
「あの……ここは?」
「ここは私達が宿泊している宿屋です。貴方は半日近くも眠っていたのですよ」
「半日も……!?」
外の光景を確認した時から予想はしていたが、コウは自分が半日も眠っていた事に驚きを隠せず、一方でリンは持って来た水桶の水を汲んで彼に渡す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます