第53話 魔法腕輪とは

「魔法腕輪は魔法を発動させる魔道具の一種であり、普通の杖よりも価値は高い代物です。この腕輪を装着すれば本職の魔術師でなくとも魔法を発動する事ができますから高値で売買されています」

「なるほど、だからドルトンさんは……」



魔道具店のドルトンがコウの腕輪に強い興味を示した理由が発覚し、彼はコウの腕輪を見た時から魔法腕輪だと見抜いていたのだ。それならばもっと早く教えて欲しかったとコウは思うが、まさかドルトンもコウが魔法腕輪だと気付かずに装着していたなど夢にも思わなかったのだろう。


ハルナからお礼として受けとった代物だが、まさか魔法腕輪なる高級品を貰っていた事にコウは動揺し、今更返せと言われないか心配する。しかし、コウの心配をよそにリンは魔法腕輪を手に取って訝し気な表情を浮かべる。



「ですが、この魔法腕輪……どうやら魔石を装着していませんね」

「え、魔石?」

「まさか、魔石をご存じないのですか!?」

「その、名前は聞いた事があるんですけど詳しくは知らなくて……」



魔石という名前はコウも何度か耳にした事はあったが、具体的にはどのような代物なのは知らなかった。一応は魔法使いが持っている杖などに取り付ける代物だとは知っているが、どうして魔法使いが魔石を装着した杖を使っているのかはまでは知らず、それを正直に伝えるとリンは呆れた様に魔石の説明を行う。



「いいですか?魔石とは名前の通りに魔法の力が封じられた鉱石を加工して作り出された魔道具なのです。魔法使いは魔石を触媒にする事で魔法を発現させ、体内の魔力の消費を抑えます」

「えっ……じゃあ、普通の魔法使いは魔石を利用して魔法を使うんですか?」

「その通りです。もしも魔石無しで魔法を発動などすれば肉体に大きな負担が掛かり、下手をしたら意識を失います。最悪の場合は死に至る事もあるのですよ」

「ええええっ!?」



コウは魔石無しで魔法を扱う事がどれほど危険な事なのか初めて知り、リンはコウが気絶して今まで目覚めなかった理由は怪我のせいではなく、彼が魔法を発動した事が原因だと語る。



「コウさんがずっと目を覚まさなかったのは体内で消費した魔力が回復していなかったからです。目を覚ました今も気だるさを感じているならば完全に魔力を回復していないのが原因です」

「魔力……」

「魔力とは魔法の力の源であり、同時に生命力その物と言っても過言ではありません。魔力を限界まで消費していた最悪の場合は死に至ります。なので今後は魔法を使う時は細心の注意を払ってください」

「そ、そうします……」



自分が気絶した原因は魔法の影響だと知ったコウは衝撃ショックが大きく、彼は戦闘の際中にたった一回しか魔法を使っていない。それなのにコウは半日近くも眠り続けた事を知り、酷く動揺していた。



(まさか一回魔法を使っただけでこんな事になるなんて……この力はやたら無暗に使えないな)



折角魔法の媒介に利用できる魔法腕輪を手に入れたというのにコウは魔法を使えない事に衝撃を受け、これでは何のために苦労して魔法を覚えたのかと落ち込んでしまう。


しかし、もしも魔法を覚えていなかったコウはネココを襲った盗賊を倒す事はできなかった。そう考えると魔法を覚えた事は決して無意味ではなく、気持ちを切り替えてリンに問い質す。



「ネココは……何処の街に行ったんですか?」

「それは……申し訳ありません、私からは言えません。彼女は恐らく、貴方を危険に巻き込みたくないからこそ一人で立ち去ったんです。もしも追いかけたとしても彼女はきっと貴方と一緒に居る事はできないと言うでしょう」

「そうですか……くそっ、あの馬鹿。せめて別れぐらい言わせろよ」



コウはリンの言葉を聞いて悔し気な表情を浮かべ、一人で逃げ出してしまったネココの事を思うとやるせない気持ちを抱く。もしも仮に彼女がコウの元を去らずに残ったとしても、今のコウは彼女を守り切れる自信がない。



(もっと強くならないと……)



今までのコウは幼馴染のルナに追いつくために強くなろうと考えていた。しかし、今回の一件で改めてコウは自分が一人の女の子を守る事ができないくらいに自分が事を知った。



(強くなるんだ……絶対に)



無意識にコウは右拳を握りしめると、彼はある事を思い出す。それは盗賊との戦闘の際中、相手の足を燃やした時に自分の右手も燃えたはずだが火傷の跡が一切残っていない事に気付く。


眠っている間にハルナが治療してくれたのかと思ったが、それにしても全く火傷の跡が残っていない事に違和感を抱いたコウはリンに尋ねる。



「あの……右手もハルナが治してくれたんですか?」

「右手?何の話ですか?」

「いや、だから右手の火傷も治してくれたんですか?」

「火傷?いいえ、私が確認した限りでは右手には火傷の跡はありませんでしたが……」

「え?そうなんですか?」



コウの怪我を確認した際にリンは火傷の類はなかった事を告げると、コウは自分の右手を見つめてある結論に至る。

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