第41話 適性検査

(ルナの奴は風の魔法を使っていたな。でも、あいつの場合は精霊魔法だっけ?)



勇者のルナは普通の人間と違って精霊魔法を覚えられるため、彼女が風属性の精霊魔法を使えるのであればコウは同じ魔法を覚えたとしても彼女に追いつける自信はない。



(ルナが風属性の魔法を得意とするなら他の属性にした方がいいか……確か、風属性と相性がいいのは火属性だっけ?)



各属性の魔法には相性が存在し、火属性の魔法は風属性の魔法を吸収する性質がある。コウはルナと同じ風属性の魔法を身に付けるより、火属性の魔法を覚えた方がいいのかと考える。


風属性と水属性の初級魔法の魔術書を本棚に戻すと、コウは火属性の魔術書を手にしてカウンターへ向かう。コウの様子を見ていたドルトンはカウンター越しに話しかけてきた。



「お決まりですか?」

「はい、この魔術書を買います」

「そうですか。では清算前に念のために検査をしておきますか?」

「……え?検査?」



コウは魔術書をカウンターに置くと、ドルトンは代金を受け取る前に水晶玉を取り出す。いきなり水晶玉を出してきた彼にコウは戸惑うが、ドルトンは彼に説明を行う。



「当店では魔術書の購入の際にお客様に魔法の適性検査を受けるようにお勧めしております」

「適性……検査?」

「はい、このように掌を翳すだけで結構です」

「こ、こうですか?」



言われた通りにコウは水晶玉に掌を伸ばすと、水晶玉の中心部に小さな火が灯る。それを見たコウは驚き、ドルトンも声を漏らす。



「これは……」

「あ、あの……これ、何ですか?」

「おや、もしかして知らないのですか?この水晶玉は特別な水晶で作られていて触れるだけでその人間の適した属性が判明します。風ならば渦巻、火ならば炎、水ならば水の塊と言った風に水晶玉の内部で反映されるのです」

「えっ!?」



説明を受けたコウは驚き、彼は水晶玉の中に出現した小さな火を見つめる。どうやら彼は火属性の適性があるらしく、コウ自身は自分が火属性に適性があるなど知りもしなかった。



(魔法って、魔術書を読んで理解すれば勝手に覚えると思ってたけど、まさか属性の相性とかあったのか!?し、知らなかった……でも、言われてみればリンさんもハルナも一つの属性の魔法しか使ってなかったな)



これまでにコウが遭遇した魔法使いはルナ、リン、ハルナの三名だが、彼女達は魔法を使う時は一つの属性しか扱っていなかった事を思い出す。まさか魔法を覚えられる人間が扱えるのは一つだけなのかと疑問を抱いたコウはドルトンに質問する。



「あの、もしかして魔法って一つの属性しか覚えられないんですか?」

「ん?まあ、当然ですな。を使用すれば他の属性の魔法も扱えない事はありませんが、基本的には一つの属性魔法しか覚えられません」

「あ、やっぱりそうなんですか……」

「ですがエルフ族のような精霊魔法の使い手の場合は別です。エルフ族は自分には適しない属性の精霊とも契約を交わせば精霊魔法を扱えると聞いた事があります。まあ、人間の方にはあまり関係のない話ですが……」



コウの予想通りに基本的に魔法使いが覚えられる属性は一つに限られ、コウの場合は火属性の適性を持つ事から彼は火属性の魔法しか扱えない事が判明した。偶然とはいえ、コウは自分が適した属性の魔術書を購入を決めた事になる。


もしかしたらコウが火属性を選んだのは無意識に己の適性を理解していたからかもしれず、単純にルナへの対抗心だけで火属性の魔法を選んだのではないかもしれない。コウは自分が火属性の適性を持つ事を改めて知り、今後も新しい魔法を覚えるために魔術書を購入する場合は悩む必要はなくなった。



「しかし、この魔力量では……いえ、ご自身も理解した上で購入すると決めたのですね。ならば止める事は無粋ですね」

「え?それってどういう……」

「代金はこちらになります」



ドルトンはコウが掌を翳した瞬間に出現した「種火」のようにか細い火を見て心配した表情を浮かべるが、彼は首を振って代金を要求した。コウは魔術書に括り付けられていた値札の金額を支払い、魔術書を受け取った。



(このおじさん、何を言いかけたんだろう……ちょっと気になるけど、これを読めば僕も魔法が使えるのか)



魔術書を遂に手に入れたコウは興奮した様子で本を受け取り、ドルトンに頭を下げて店を出て行く。



「ありがとうございました!!」

「またのお越しをお待ちしております」



嬉しそうに魔術書を抱えて店を出て行ったコウを見送った後、ドルトンは水晶玉に視線を向けた。コウが掌を離した途端に水晶玉の内部で燃えていた小さな火は消えてしまい、この時にドルトンはコウに一つだけ説明を忘れていた。




――火属性の適性を持つ人間が水晶玉で適性検査を行う場合、水晶に出現する火の大きさによって魔力の大きさを計る事ができる。ならば彼が用意した水晶玉に触れた瞬間、水晶玉の内部を埋め尽くすほどの炎が誕生するのだが、コウの場合は水晶玉を満たすどころか種火程度の大きさの日しか生み出せなかった。




この事から彼の魔力量は並の魔術師よりも遥かに劣る事が確定し、この事をドルトンが伝え忘れたためにコウの身に大変な事態が起きる。

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