第40話 魔道具店の主人

「ここが魔道具専門の店……何か、思っていたより古めかしいな」



魔道具を取り扱う店というのでコウはてっきり高級感がある店だと思っていたが、実際に辿り着いた店は年季のある木造製の建物だった。看板には「魔導専門店ドルトン」と記されており、恐らくはドルトンというのは店の主人の名前だと思われた。


とりあえずはコウは店の中に入ると誰も人の姿は見当たらず、店員の姿も見当たらない。最初は留守かと思ったが、ここまで来た以上は手ぶらで帰れずに駄目元で声をかける。



「すいませ~ん!!誰かいませんか!?」

「そんなに大声を出さなくとも聞こえますよ」

「うわっ!?」



コウは声をかけるとカウンターの方から声が聞こえ、何者かが顔を出す。現れたのはコウよりも背が低い男性であり、身長は120センチぐらいしかない。顎鬚を胸の部分まで伸ばしており、頭には三角帽子を被っていた。



(何だこの人……もしかしてドワーフか?)



異様なまでに身長が小さい老人の登場にコウは驚くが、すぐに彼はドワーフと呼ばれる種族を思い出す。ドワーフは人間よりも小柄な体格だがその代わりに手先の器用さは世界一と呼ばれ、歴史上で名前を刻んだ有名な武器や防具の殆どがドワーフの名工が作り出したと言われている。


体格は小さくとも人間よりも筋力に優れ、それでいながら手先も器用で高い技術力を誇る。コウも話は聞いた事はあるがドワーフを見るのは初めてだった。



(爺ちゃんの言っていた通り、本当に小さいんだな……でも、なんか威厳があるな)



どうやらコウが訪れた店はドワーフが経営していたらしく、彼が看板に書かれていた「ドルトン」という名前の老人で間違いないだろうと思ったコウは話しかけてみる事にした。



「ドルトン、さんですか?」

「ええ、そうです。私に何か御用ですか?」

「あ、いや……看板に書いてあったので、もしかして名前のなのかなと思って」

「ふむ、そういう事ですか。それでは改めて事故紹介をいたしましょう、私がこの店の主人のドルトンです」

「ど、どうも……コウと申します」



ドルトンと呼ばれた老人は丁寧にお辞儀を行い、名前を告げたのでコウも慌てて頭を下げて名前を名乗った。彼が祖父から聞いた話ではドワーフは粗暴な性格の者が多いと聞いていたが、この店の主人は非情に礼儀正しいドワーフだった。



(聞いていた話と全然違うな……まあ、いいや)



祖父から聞いて想像していたドワーフの人物像とかけ離れた人物が現れた事にコウは戸惑うが、時間もあまりないので用事を果たすために率直にドルトンに尋ねる。



「この店で魔術書が販売されていると聞いたんですが、売っていますか?」

「ほう、魔術書を……ふむ、それではあちらの棚に移動して下さい」



コウの話を聞いてドルトンは少し驚いた表情を浮かべ、コウの格好を見て不思議そうに首を傾げながらも魔術書が置かれている棚まで案内してくれた。


店の手前に存在する棚に魔術書が並べられていたらしく、それぞれの魔術書に値札と説明書が置かれていた。値段が高い魔術書ほど本の厚さが分厚く、拍子には複雑な魔法陣が描かれていた。



「こちらが魔術書となります。値段の高い魔術書は硝子戸にしまっていますので購入されたい場合は私に声をかけてください」

「これが魔術書……あの、硝子戸に入っていない魔術書は触ってもいいですか?」

「構いませんよ。但し、中身を読む事はできませんので注意して下さい」



棚の中に並べられた魔術書を確認し、緊張しながらもコウは一冊の魔術書を手に取った。本棚の中で並べられている中でも一番安い値段の魔術書を取り上げ、表紙を確認すると「火球ファイアボール」と記されていた。



(これが魔術書……多分、爺ちゃんの言っていた初級魔法の魔術書はこれの事だな)



本棚の中でも一番下に存在し、最も安い値段で販売されている魔術書を手にしたコウは値段を確認して目当ての魔術書だと見抜く。一番下には他にも何冊か本が並べられており、とりあえずは一つずつ確認を行う。


一番下に並べられている魔術書にはそれぞれが「風球(ウィンドボール)」「火球ファイアボール」「水球アクアボール」と書かれており、この三冊しか本はなかった。魔法の属性は7つ存在するはずだが、ドルトンの店に置かれている初級魔法の魔術書は風、火、水の属性の魔術書しか置かれていなかった。



「あの……初級魔法の魔術書はこれだけですか?」

「申し訳ありませんが私の店で取り扱っている魔術書は本棚にある分だけです。今の所は新しい魔術書を追加する予定はないので……」

「そうですか……」



ドルトンの話を聞いたコウは自分の財布の中身を確認し、残念ながら一番安い初級魔法の魔術書でも彼の手持ちの金では一冊購入するのが限界だった。そうなるとどの属性の魔術書を選ぶのかが重要となり、彼は真剣に考える。

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