第39話 お別れ

「――たくっ、やっと外に出られたぜ。もう二度とこんな場所に来ないからな!!」

「ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ございません……」

「ネココ、あんまりいじめるなよ。ほら、行くぞ」

「う〜ん、やっぱり外は気持ちいいね〜」

「ハルナ様、もう勝手に一人で出歩かれては駄目ですよ」



ようやく解放されたコウ達は兵士達に見送られながら出て行くと、この途中でコウとネココは顔色の悪い兵士を発見した。その兵士はしつこくコウとネココを犯罪者扱いして尋問を行っていた兵士であり、彼に気付いたネココは舌を出す。



「はんっ、あたしらの事を悪者扱いした事を忘れないからな」

「ぐうっ……も、申し訳ございませんでした」

「ネココ、行くぞ。こんな人に構っている暇はない」



コウも長々と絡んできた兵士には厳しく当たり、そんな二人に兵士は悔し気な表情を浮かべるが何も言い返す事はできない。そんな兵士を置いてコウ達は屯所を離れると、ネココは唐突に走り出す。



「じゃあな!!兄ちゃんと姉ちゃん、今日は楽しかったぜ!!」

「えっ!?もう行っちゃうの!?」

「へへ、あんまり外の人間と親しくなると別れが寂しくなるからな……じゃあな!!」



ネココは立ち去ろうとしたが、途中で何か思い出したように振り返る。彼女は悩んだ末に懐から小袋を取り出し、それをコウに目掛けて投げつける。



「兄ちゃん、これ返すよ!!助けてくれたお礼だ!!」

「うわっ!?」

「それじゃあ、またな〜!!」



去り際にネココはコウに小袋を投げ渡すと、戸惑いながらもコウは中身を確認すると彼女が昼間にコウから盗んだお金が入っていた。どうやら使わずにずっと持ち歩いていたらしく、彼はお金を取り戻す。


自分の金を返してくれたネココにコウは慌てて声をかけようとしたが、既に彼女は建物の上に跳躍していた。それを見送ったコウは小袋を握りしめ、苦笑いを浮かべる。



「あいつめ……何がお礼だよ」

「コウ様、我々もここで失礼します」

「えっ!?もう行くの?もうちょっと街を見てみたいのに……」

「いけません、また悪い人間に絡まれたらどうするのですか?今日はもう勝手な真似は許しませんよ」

「う〜……」



リンはハルナに注意すると改めて彼女はコウに頭を下げた。コウがいなければハルナはどうなっていたか分からず、リンはお礼を告げた。



「コウ様、ハルナ様を救ってくださって誠にありがとうございます。それと私が勘違いしてご迷惑をおかけした事はその……誠に申し訳ございませんでした」

「いえ、別に気にしてないので……」

「ハルナ様を救ってくれたお礼と迷惑を掛けたお詫びと言ってはなんですが、よろしければこちらをお受け取り下さい」

「……これは?」



リンは懐から木製のペンダントを取り出し、受け取ったコウは不思議そうに眺める。ペンダントには樹の紋様が描かれており、触れてみるとまるで岩の様に硬い木材で作られている事に気付く。



「それは世界樹と呼ばれる特別な樹木から作り出したペンダントです。それを持つ者は我等が部族の客人である事を示します。もしも他のエルフと遭遇した時、それを見せれば我々の部族の客人と知って無碍な対応はされる事はないでしょう」

「えっ……でも、そんな大切な物を受け取っていいんですか?」

「コウ様がいなければハルナ様はどうなっていたか分かりません。どうぞ、ご遠慮せずにお受け取り下さい」

「あ、それなら私もこれをあげるよ〜」



ハルナを救ってくれた恩としてリンはペンダントを渡し、それを見ていたハルナも懐に手を伸ばす。彼女が取り出したのは銀色の腕輪だった。



「これはね、昼間に露天商の人が売ってたのを見て少し気になって買ったんだ~よかったら受け取ってくれる?」

「え、いいの?」

「うん、大事にしてね〜」



銀色の腕輪をハルナはコウに渡すと、一応は確認するが警備兵の副隊長が装備していた「防魔の腕輪」のような紋様は記されておらず、ただの装飾品だった。コウはあまり装飾品には興味はないが、ハルナの気持ちを汲んで受け取っておく。


ペンダントと腕輪を受け取ったコウはその場で身に付けると、ハルナとリンと別れを告げた。名残惜しいが彼も急いで用事を済ませなければならず、二人に手を振りながら立ち去る。



「それじゃあ、二人ともお元気で!!」

「またね〜コウ君!!」

「お世話になりました」



ハルナは元気よく手を振り返し、リンは深々と頭を下げた。それを確認したコウは急ぎ足で魔術書が販売されている店を探しに向かう――






――時刻は既に夕方を迎えており、今日中に村に戻らなければならないのでコウは街の人々に話を聞いて急いで魔術書を販売している店を探し出す。そして彼は遂に魔術書を販売している店を発見した。



「はあ、はあっ……ここか」



魔術書は書店などでは販売されておらず、魔道具店という魔道具専門の販売を行っている店で売却されている事が判明した。イチノで魔道具展を経営している店は一つしかないらしく、コウは急いで向かうと店の外見を見て驚かされる。




※まさかの夜投稿!!

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