第42話 魔法の習得

――翌日の昼、村に戻ったコウは自分の家で薪割りを行っていた。彼の頭には大きなたんこぶができあがっており、痛そうな表情を浮かべながら薪割りを行う。



「いてててっ……たく、朝帰りしたぐらいであんなに怒らなくていいのに」

「ぷるぷるっ(言い方が悪い)」



予定よりも大分遅い時間帯に戻ってきたせいでコウはアルに叱られ、たんこぶができる程の強烈な拳骨を受けた。しかし、どうにか目当ての魔術書を手に入れたコウは薪割りを終えると本を開く。



「これが魔術書か……なんか、思っていたのと違うな」

「ぷるるんっ?」



魔法を覚えるためには魔術書を読み解き、魔術書を描いた人間がどのような体験を経たのか追憶し、自分と物語の主人公を重ね合わせる事ができたら魔法が使えるようになる。コウが購入した初級魔法の魔術書はとある少年の物語が描かれていた。


物語の内容自体は意外と面白く、実話を基にして描かれているので絵本と違って緊張感があった。但し、1時間もすれば読み解ける程の分量しかないため、コウは何度も本を読んで内容を覚える。



(う〜ん、流石に何度も読むと飽きてきたな……いや、読むだけじゃ駄目なんだっけ。ちゃんと物語の主人公になりきらないと……)



魔術書を読みながらコウは自分の子供の頃を思い出し、物語の主人公と重ね合わせる。本の内容を何度も読み直す事で自分が物語の主人公になりきるように頑張った。



(この物語の終わりは主人公が魔法を覚えた所で終わってる。物語の最初から主人公の行動を辿っていけば……)



目を閉じて頭の中でコウは物語の主人公になり切り、覚えた内容を頼りに魔法を覚えるまでの手順を行う。最初は上手くいかなかったが、何度も繰り返していくうちにコウの意識が薄れていく――






――コウは夢を見ていた。その夢では彼は貴族で両親と共に平和に暮らしていた。しかし、ある時に妹が病気になって放置すれば命が助からないと医者に告げられる。


妹を助けるためには特別な薬草が必要らしく、その薬草が生えているのは危険な魔物が暮らす森の中だと知った。コウは妹を救うために家の地下にあった魔法の杖を手にして森へ入る。


魔法の杖といってもコウは魔法を使った事はなく、それでも妹を助けるために彼は森の中に進む。そして遂に念願の薬草を見つけたが、薬草の傍には額に角を生やした兎が存在した。


コウが薬草を手に入れようとすると兎は怒った風に頭の角で彼を突き刺そうとしてきた。それに対してコウは慌てて魔法の杖を構えるが、魔法は使えない彼はどうする事もできず、兎の角が刺さって杖が折れてしまう。


魔法の杖が壊れたコウは兎に怯えるが、折れた杖から赤色の宝石が外れた。それを見た時にコウは無意識に手を伸ばすと、宝石が光り輝いて彼の中に熱い何かが流れ込む感覚を覚えた。


宝石はコウが触れた瞬間に輝きを失い、ガラスのように透明と化して砕け散ってしまう。その代わりにコウの掌には炎のような紋様が浮き上がり、彼は無意識に手を伸ばしてを唱えた。



火球ファイアボール!!』



コウの伸ばした掌から炎の塊が出現すると、自分に襲い掛かってきた兎に当てた。兎は炎に包まれて悲鳴を上げる暇もなく絶命し、そこでコウは意識を取り戻す――






――コウは目を覚ますと自分が家の庭で眠っている事に気付き、横を向くとスラミンが心配そうに自分の顔を覗き込んでいる事を知る。



「ぷるぷる……」

「スラミン……俺、もしかして気絶してた?」

「ぷるんっ」



肯定するようにスラミンは頷くと、コウは頭を抑えながら身体を起き上げた。どうやら一瞬だけ気絶していたらしく、太陽の位置から時間は殆ど経過していない事を確認して安堵した。



(何だったんだ、今の夢は……?)



自分が見た夢の事を思い返してコウは疑問を抱き、彼は貴族の出身でもなければ両親は既に他界し、妹も生まれてなどいない。それなのにコウは夢で見た内容が他人事のように思えない。


夢の中のコウは病気の妹を救うために旅立ち、彼女の病気を治すために必要な薬草を見つけた。そこで魔物に襲われたコウは魔法の杖に取り付けられていた宝石を手にした瞬間に魔法を覚え、襲い掛かってきた魔物を倒した所で目を覚ます。この時点でコウは夢の内容が自分の読んだ魔術書の内容と全く同じだと気付いた。



「そうだ!!あの夢はこの本に書かれていた内容と同じだったんだ!!それなら……まさか!?」

「ぷるんっ?」



夢の内容が魔術書と同じだと気付いたコウは掌を覗くと、掌の中心に炎を想像させる紋様が浮き上がっていた。リンやハルナの手に刻まれていた「魔術痕」と呼ばれる紋様と同じ物が彼の右手に刻まれていた。



「やった……やったぞ、スラミン!!」

「ぷるるんっ!?」



事情を知らないスラミンは急に自分を持ち上げたコウに驚くが、コウは嬉しさのあまりに彼を天高く放り投げ、改めて自分の掌に視線を向けて紋様を確かめる。

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