第35話 ハルナとリンの正体
「さあ、どうぞこちらへ」
「じゃあな、おっさん」
「今度からはちゃんと人の話を聞いた方がいいですよおじさん」
「ぐぅっ……き、貴様等!!」
「こら、失礼だぞ!!お前は下がっていろ!!」
兵士はコウとネココの態度に頬を真っ赤にするが、そんな彼を警備隊長が怒鳴りつける。この時にコウは兵士の横を通り過ぎるふりをして彼の足を踏み、男は悲鳴上げた。
「ぐあっ!?」
「あ、すいません。足を踏んじゃいました?」
「おいおい、気をつけろよ兄ちゃん」
「こ、このっ……」
「お前は黙っていろ!!それとちゃんと二人に謝罪せんか!!」
「ぐぐぐっ……も、申し訳ございませんでした」
足を踏まれた兵士の男は痛そうな表情を浮かべ、この時にネココはさりげなく兵士の後ろに回り込み、気軽に背中を叩く。そんな二人の態度に兵士は怒りを抱くが、警備隊長に注意されて顔を真っ赤にしながらも謝罪した。
コウもネココも兵士の謝罪する姿を見て胸が晴れた気分になり、これ以上に刺激するのは辞めて警備隊長の後に続く。この時に部屋の外に出るとコウはネココの耳元に口を寄せて尋ねる。
「どうだった?」
「へへ、上手くやれたぜ」
警備隊長に気付かれないようにネココはこっそりと左手を見せると、彼女の掌の中には小袋が握りしめられていた。実はコウが兵士の足を踏んだ時、兵士の意識が彼に逸れた隙にちゃっかりとネココは財布を盗んだ。
「流石だな。でも、それを持って帰ると泥棒だぞ」
「分かってるって……後で適当な場所に置いて帰るよ。ここの兵士が真っ当な連中なら落とした財布の主に返すだろ?」
流石にネココも屯所内で盗みを行うのはまずく思い、彼女は財布には手を付けずに適当に床に落とす。そんな彼女にコウは笑みを浮かべて拳を突き出す。
「お前、中々やるな」
「へへっ、兄ちゃんもな」
お互いに拳を合わせてコウとネココは笑みを浮かべ、冷静に考えるとコウはルナ以外で親しくなった女の子はいない事に気付く。コウの村には彼と同世代の女の子はルナぐらいしかおらず、ルナ以外の女の子と仲良くなったのは初めてだった。
「さあ、こちらの部屋で御二人がお待ちです」
「ここは?」
「私の部屋でございます」
警備隊長が案内したのは彼が管理する部屋らしく、中に入ると既にハルナとリンの姿があった。ハルナは椅子に座って優雅に紅茶を味わい、その傍にはリンが立っていた。コウ達が部屋に入るとハルナは嬉しそうに手を振る。
「あ、良かった~二人とも無事だったんだね!!」
「無事というかなんというか……」
「兵士のおっさんにしつこく質問されまくって疲れてるけどな……」
「どうぞおかけください。紅茶をすぐに用意します」
リンはハルナと向かい合う席にコウとネココを移動させ、二人分の紅茶を用意した。この時に警備隊長の男は緊張した面持ちで壁際に立ち、彼に対してはリンは座るように促す事はしなかった。
席に座ったコウは机の上の紅茶を見て実を言えばコウは紅茶を飲むのは初めてだった。ネココも同様なのか自分の注がれた紅茶を見て戸惑い、恐る恐る紅茶に舌を伸ばすと熱そうな表情を浮かべる。
「あちっ!?ちょ、あたしは猫舌だから飲めねえよ!!」
「そうでしたか……申し訳ありません。では冷たい水を用意しましょう、水を汲んできてくれますか?」
「えっ……わ、私がですか!?」
「早く持ってきてください」
壁際に立っていた警備隊長にリンは水を用意するように伝えると、警備隊長の男は慌てて部屋の外を出ていく。それを見たコウとネココは唖然とした。仮にもイチノの警備を任される立場の人間が外部の人間に水を汲みに行かされるなど普通ならばあり得ない。
「あの……リンさん、いったい何があったんですか?」
「ていうか、あんたら何者だよ?ただの貴族……というわけじゃないんだろ?」
「それは……ハルナ様、御二人にお話しても大丈夫ですか?」
「うん、いいよ〜」
コウとネココの疑問に対してリンはハルナの許可を得ると、彼女は懐から木箱を取り出すと、それを机の上に置いた。木箱の蓋を開くと中から現れたのは緑色に光り輝く水晶のペンダントが収められていた。
「これは……?」
「うわ、凄く綺麗だな!!何だこれ!?」
「こちらは樹魔石と呼ばれるハルナ様の家に伝わる家宝でございます。エルフの中でも王族しか持ち歩く事が許されない大切な物なのです」
「へえ、王族だけが……王族!?」
「王族って……じゃあ姉ちゃんはこの国の貴族じゃないなかったのか!?」
「ち、違うよ〜私はエルフの里から来たんだよ?」
ハルナの正体を知ったコウとネココは度肝を抜かし、彼女が只者ではない事は身なりでわかったが、まさか相手がエルフの国の王族だとは思わなかった。しかし、コウは昔にアルから聞いた話を思い出す。
「あれ?でもエルフの国は大昔に滅んだんじゃないの?確か大災害が起きてエルフの国はなくなって、今ではばらばらに分かれて暮らしていると聞いたけど……」
「はい、その通りです。我等が国は遥か昔に滅びました。しかし、ハルナ様はかつてエルフの国を築いた王族の血筋なのです」
コウの言葉にリンはすぐに反応し、エルフが築いた国家は既に滅びたが、国を治めていた王族の子孫は生き残っていたらしく、ハルナこそが王家の血筋を継ぐ人物だと説明する。
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