第34話 世間知らず
「この腕輪、そんなに価値があったのか……」
「へへ、こいつ結構あくどい真似をして金を稼いでいたからな。でも、こいつら本当にどうするんだよ?警備兵に突き出してもあたし達が悪者にされて捕まっちまうかもしれないぞ?」
「ご安心ください、その点に関しては私が何とかしましょう」
「え、何とかって……どうするつもりですか?」
コウが倒した警備兵はイチノの警備兵の中でも副隊長の座に就き、警備兵の中では二番目に偉い立場の人間である。もしも警備兵に突き出したとしてもコウ達が警備兵に手を出した犯罪者として捕まる可能性もあった。
だが、リンに何か考えがあるのか彼女はこのまま警備兵の元まで盗賊達を連れて行く事を促す。コウとネココは本当に大丈夫かと不安を抱くが、ハルナが二人を安心させるように笑う。
「リンちゃんが大丈夫だというなら大丈夫だよ。ね、リンちゃん?」
「ええ、何も問題ありません」
「そ、そうですか……」
「あたしは一緒に行かないぞ。この街の警備兵の連中には目を付けられてるし……うわっ!?」
「いいえ、一緒に来てもらいます。どうやら貴女もただの一般人ではないようなので」
ネココが自分だけ去ろうとするとリンは瞬時に彼女の背後に回り込み、首根っこを掴んで持ち上げた。この際にネココがこっそりと持ち出そうとしていた腕輪も回収し、コウにも一緒に来るように促す。
「状況説明のために貴方も来てもらいます。よろしいですね?」
「あ、はい……」
「ちょ、離せよ!?腕輪も返せ!!」
「元々貴方の物ではありません。それにこの腕輪が本当にこの男の持ち物かも怪しいです。盗品の可能性もあるのでこちらで一旦預からせて貰います」
「じゃあ、行こうか~」
コウ達はリンの先導で警備兵の屯所に向かう事になり、途中でネココは何度も逃げ出そうとしたがその度にリンに捕まり、最終的には諦めたのか屯所に到着した時は大人しくなっていた――
――盗賊と結託した警備兵を捕まえたと報告した途端、警備兵は驚いてコウ達が捕えた人間の確認を行う。結果から言えば盗賊の方は前科もある事が発覚したのですぐに牢屋に閉じ込められたが、問題なのは捕まえた警備兵の正体が副隊長である事だった。
最初の内は副隊長を連れて帰ってきたコウ達に対して警備兵は本当に彼が犯罪を起こしたのか執拗に尋ねた。何かの間違いではないのか、本当に彼が襲ったのか、彼を犯罪者に仕立て上げるためにコウ達が襲ったのではないかと疑う者もいた。
「正直に答えろ!!副隊長を襲ったのはお前等だな!!」
「だから、何度も言ってんだろうが!!あたしらは被害者だっての!!」
「ふん、なら証拠を見せて見ろ!!」
「あの……これは只の事情聴取ですよね。なんで俺達が犯罪者みたいに扱われるんですか?」
柄の悪い警備兵がコウとネココを怒鳴りつけ、先ほどから彼は二人の話を信じず、それどころか捕まえた警備兵を襲ったのは二人であると決めつけていた。そんな彼の態度にネココはぶちぎれ、コウの方も苛立ちながらも我慢していた。
(やっぱりこうなかったか……あの人、本当に何か考えがあるのか?)
屯所に訪れると何故かリンとハルナは別室に案内され、取り残されたコウとネココは兵士から名目上は事情聴取を受けるが、実際の所は彼等が犯罪を犯したかのように兵士は問い詰める。
(この兵士もきっと俺が捕まえた副隊長とやらと繋がりがあるんだろうな……このまま捕まったら洒落にならないぞ)
既に時刻は夕方を迎えようとしており、コウは今日中に帰れるのか不安を抱く。もしも彼が帰れなければ村に残った
「貴様、何をしている!!」
「け、警備隊長!?いえ、自分はこいつらの尋問を行っているだけでして……」
「何が尋問だ!!お前が相手をしている子供達は犯罪者ではないぞ!!」
「も、申し訳ございません!!」
部屋の中に入ってきた人物はどうやらイチノの警備隊長らしく、初老の男性だった。先ほどまでは横暴な態度を取っていた兵士は警備隊長の言葉に慌てて頭を下げるが、そんな彼を押し退けて警備隊長はコウとネココに頭を下げた。
「我が部下が勝手な真似をして申し訳ございません。御二人の身分は先ほどお連れの方々が証明しました。どうぞ、こちらへ……」
「えっ?」
「たくっ……ようやく帰れるのか」
警備隊長の言葉にコウは驚き、ネココの方は疲れた表情を浮かべる。警備隊長の言葉と態度を見て事情聴取という名目で尋問を行っていた兵士は混乱するが、そんな兵士に対してネココはコウの耳元に囁く。
「兄ちゃん、ごにょごにょっ……」
「……なるほど」
コウはネココの言葉を聞いて呆れた表情を浮かべるが、彼も兵士に対して鬱憤を溜めていたので彼女の提案に乗る事にした。
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