第36話 エルフの王族

「マジかよ!!じゃあ、姉ちゃんは王女なのか?」

「えっ!?ち、違うよ〜……ご先祖様は王様だったのかもしれないけど、私は王女様でも何でもないよ〜」

「いいえ、そのような事はありません。何時の日かハルナ様が大人になった時、世界に散らばったエルフ族をまとめあげて女王の立場に就くのです」

「もう、だから私はそんな事する気ないってば……」



先祖が王族といっても国が滅びた以上は今現在のハルナは王族の血筋というだけで王女ではないと告げるが、リンはいずれ彼女が大人になった時にエルフの女王として君臨する事を信じていた。


国が滅びた後にエルフ族は世界各地に散らばり、それぞれが別々の部族となって暮らしているという。もしもエルフの国を再建する場合は世界中に散らばったエルフ族を統一しなければならず、それは途方もない時間が掛かるらしい。



「ハルナ様が大人になれば正式に我等が部族の長となり、他の部族と交渉する機会も増えます。この機会にハルナ様が王族の血筋である事を明かされ、他のエルフ族をまとめ上げるのです」

「そんなの無理だってば……私はお母さんとは違うもん」

「お母さん?」

「ハルナ様の母親のシキ様は若くして部族の長となり、世界に散らばった12のエルフ族の内、3つの部族をまとめ上げた立派なお方です。残念ながら10年ほど前に亡くなられましたがハルナ様はシキ様の一人娘なのです」



ハルナの母親のシキは彼女が暮らす集落の長を勤めていたらしく、族長の座に就くと他のエルフの部族を呼び集めて一つの部族にまとめ上げたらしい。そのために昔は12の部族に分かれていたエルフ族だったが、4つの部族が集まった事で現在は9つになった。


他のエルフ族の中でもハルナの属する部族は最大勢力を誇り、もしもシキが生きていれば他の部族をまとめ上げてエルフの国を再建できたかもしれない。しかし、シキが亡くなった事で跡継ぎに選ばれたハルナは生憎と母親と違って他の部族をまとめ上げる自信はなかった。



「私はお母さんと違って頭も良くないし、強くもないし、魔法だって回復魔法しか使えないもん。そんな私の事を他の部族の人たちが認めてくれるわけないよ……」

「何をおっしゃいますか、ハルナ様はまだお若いのですからあと100年も経てば母君のように立派な戦士長になれます」

「100年!?」

「そういえばエルフって長命の種族で有名だったっけ……」



エルフは他の種族と比べて寿命が長く、300~400年は生きられるという。だからこそリンはハルナに諦めないように説得するが、当のハルナは母親に追いつける自身がないという。



「でも、100年経っても私がダメダメだったらどうすればいいの?」

「だ、大丈夫です!!シキ様の血を継がれているのですからハルナ様もいずれは魔法の才能も開花するはずです!!」

「だけどお母さんは子供の頃から攻撃魔法も使えたんでしょ?それなのに私は回復魔法しか使えないし……」

「あの……さっきから気になってたんだけど、ハルナは魔法が使えるの?」

「え?う、うん……回復魔法だけなら使えるよ」



コウは魔法という言葉を聞いて俄然興味を抱き、そもそも彼が街に訪れた理由は魔術書を購入して魔法を覚えるためである。しかし、現実にコウは魔法の存在がある事は知っているが実際に見た事はない。


話を聞く限りではどうやらハルナは回復魔法が扱えるらしく、彼女はコウに聞かれて戸惑いながらも頷く。コウは回復魔法がどんな物なのか気になり、ここで見せて貰えないのか頼む。



「なら、今ここで見せてくれない?実はさっき戦った時に拳を痛めちゃってさ……」

「えっ!?そ、そうだったの!?」

「そういえば兄ちゃん、鎧越しに殴ってたもんな……よく痛めただけで済んだよな」

「ここの警備兵は治療しなかったのですか?全く、この街の領主はどういう教育を施されているのやら……後で苦情を伝えておく必要がありますね」



先の戦闘でコウは拳を痛めた事は事実であり、警備兵が身に付けていた防魔の腕輪なる装飾品のせいで上手く力が発揮できずに拳を痛めてしまった。コウが怪我をしていると知ったハルナはすぐに治療を承諾する。



「分かった、すぐに治してあげるね!!じゃあ、怪我をしたところ見せてくれる?」

「こう?」

「ん?兄ちゃん、どうして急に自己紹介したんだ」

「名前じゃねえよっ」



ハルナの言う通りにコウは右手を差し出すと、彼女はコウの右手に両手を翳す。この時にコウはハルナの右手に十字架のような紋様が浮き上がるのを確認し、それを見たコウはリンと初めて会った時を思い出す。



(そういえば前にこっちの女の人も魔法を使う時、紋様みたいなのが浮かんだような……)



リンが大男に絡まれた際、彼女も魔法の力を使用した時に確かに紋様が浮き上がった。この紋様が魔法と何か関係があるのかとコウは考えている間にハルナは回復魔法を発動させた。

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