第25話 エルフの魔法

「もう行ってもいいですか?私は貴方みたいな暇人と違って忙しいので点tね」

「な、何だと!?ふざけやがって、エルフだからって調子に乗るなよ!!」

「うるさいですね。足を踏んだなんて因縁を付けて私を変な所に連れ込もうとした癖に……誰か、警備兵を呼んでください!!」

「て、てめえっ!!余計な事を言うんじゃねえぞっ!!」



大男はエルフの女性の言葉に慌てて彼女の口元を塞ごうとしてきたが、自分に近づいてきた男性に対してエルフの女性は掌を突き出す。



「しつこいですよ、このブ男!!」

「ぐへぇっ!?」

「うわっ!?」

「危ない!?」



女性の掌底が大男の腹部に衝突した瞬間、衝撃波が走って大男の身体が吹き飛ぶ。それを見た人だかりは慌てて避けるが、コウは避け切れずに大男を受け止める。



「うわぁっ!?」

「がはぁっ!?」

「しまった!?君、大丈夫……えっ!?」



関係ない人間を巻き込んでしまった事に女性は慌てふためくが、コウは吹き飛んだ大男の身体を両手で支え、そのまま地面に下ろす。100キロ近くはありそうな大男を受け止めたコウに周囲の人間は驚き、一方でコウは額の汗を拭う。



(あ、危なかった……鍛えてて良かった。それにしてもこんなデカい男を吹き飛ばすなんて何者なんだ!?)



大男をどうにか地面に下ろしたコウは驚いた様子で女性と倒れた大男を交互に確認すると、この時にコウは大男の腹部に奇妙な跡が残っている事に気付く。


女性が掌底を叩き込んだ際にできあがったと思われる痣が残っているが、何故か大男の腹部の痣は。まるで高速回転した物体を叩き込まれたかのように不自然なまでに大男の腹部は捻じれており、白目を剥いて気絶していた。



「この痣は……」

「だ、大丈夫ですか!?ごめんなさい、もう少し周りを見てやるべきでした……」

「あ、いえ……気にしないでください」



コウに対して女性は素直に謝り、迷惑を掛けた事を謝罪した。コウも一部始終を見ていたので女性の行動に文句を言うつもりはなく、そもそも人だかりに近付いた自分の責任だと考える。


改めてコウはエルフの女性と向き合い、彼女の右手に視線を向けた。先ほど大男に掌底を喰らわせた際に彼女の掌から衝撃波のような物が発生し、それを受けた大男は吹き飛んだように見えた。



(何だったんだ、今の……もしかして魔法?)



コウは女性の右手に視線を向けると、相手は不思議そうな表情を浮かべて自分の右手を覗く。



「……私の手が気になるのですか?」

「あ、いや……」

「おい、何の騒ぎだ!?」

「こんな所で何をしている!!」



警備兵がようやく遅れて到着し、それを見たコウはひとまずは安心する。しかし、彼が一瞬だけ女性から視線を外した途端、突風が発生した。



「うわっ!?」

「申し訳ありません、ここで失礼します!!」



コウは女性の声を耳にすると、彼が振り返った時には女性の姿は消えていた。驚いたコウは周囲を見渡すが女性の姿は見当たらず、突風と共に彼女の姿は消えてしまった。


前にも似た様な感覚を味わったコウは上空を見上げると、そこには女性が風を纏って空を飛ぶ光景が見えた。前にルナが空を飛ぶ姿を見た事はあるが、彼女も同じように風の魔法で空を飛ぶ事ができるらしく、警備兵に絡まれる前に逃げ出してしまう。



「ちょ、ちょっと!?」

「おい、君!!これは君の仕業か!?」

「いったいこの男に何をしたんだ!?」

「えっ!?いや、ちがっ……」



駆けつけた警備兵は倒れている大男の前に佇むコウを見て彼が大男を気絶させたのかと勘違いし、肩を掴もうとしてきた。慌ててコウは言い訳をしようとした時、何者かがコウの腕を掴む。



「何してんだ!!ほら、逃げるぞ!!」

「えっ!?」

「あ、待て!!何処へ行く気だ!?」

「捕まえろ!!」



コウは何者かに腕を引っ張られて走り出すと、警備兵は彼が大男を気絶させた人物だと勘違いして追いかける。コウは自分の腕を掴んで駆け出した人物に視線を向けると、全身をフードで覆い隠しているので姿は見えないが自分よりも小さい子供だと気付く。



「だ、誰だお前!?」

「へへっ、いいから付いて来なよ!!捕まったら面倒な事になるぞ!?」

「ああ、もう……くそっ!!」



警備兵に顔をはっきりと見られる前にコウは何者かと共に駆け出し、路地裏へと逃げ込む。路地裏には何故か大きな木箱が積まれており、フードの人物は器用に木箱の上を飛び越える。



「ほら、しっかり付いて来な!!」

「お前、誰だよ!?」

「いいから止まったら捕まっちまうぞ!!」

「待て!!待たんかっ!!」



木箱の上を猫の様に警戒に跳び回るフードの人物にコウは驚くが、彼も毎日魔の山に出入りしており、身体を鍛え上げているので身体能力にも自信があった。


フードの人物のようにコウは木箱の上に跳び込み、毎日山の中を走り回って鍛え上げられた脚力を生かして跳躍を行う。自分の後にしっかりと付いてくるコウを見てフードの人物は驚いた声を上げる。

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