第26話 盗賊少女
「へえっ、中々やるな兄ちゃん!!あたしに付いてこられるなんてすごいじゃん!!」
「言ってる場合か!!何処まで逃げるつもりだ!?」
「へへっ、あそこまでだよ!!」
フードの人物は木箱を土台にして建物の屋根の上まで移動し、その後にコウは続く。警備兵は二人の後を追いかけようとするが、二人のように木箱を上手く飛び越える事ができずに悪戦苦闘していた。
「ま、待ちなさい!!こらっ!!そこから降りてきなさい!!」
「な、なんてすばしっこい奴等だ……」
「はんっ!!お前等がノロマなだけだよ!!」
「馬鹿、挑発するなっ!!」
警備兵を小馬鹿にするようにフードの人物は笑い、先ほどからの言動にコウは薄々と相手の正体に気付き始めていた。しかし、確信を抱く前にフードの人物は屋根の上を駆けだして別の建物に跳躍する。
「うにゃっ!!」
「うわっ!?ちょ、マジか!!」
猫のような声を上げてフードの人物は別の建物の屋根に跳躍すると、それを見たコウは驚いた声を上げるが彼も駆け出す。上手く跳べるか自信はなかったが、ここで捕まると面倒な事になると思ったコウは思い切って跳躍した。
「うおおおおっ!!」
勢いよく駆け出したコウは全力の力を発揮し、この時に彼はゴブリンに襲われた時の事を思い出す。ゴブリンに殺されかけた時に発揮した火事場の馬鹿力を発揮して飛び込む。
限界まで身体能力を引き出したコウは向かい側の建物に目掛けて飛び込み、どうにか屋根の上に着地する事に成功した。フードの人物はコウも屋根を飛び越えた事に驚き、その正体を晒す。
「うわっ!?マジで凄いな兄ちゃん!!人間の癖によくこの高さの建物に飛び移れたな!!」
「はあっ、はあっ……に、人間?それってどういう意味だ?」
コウは妙な言い回しをしてきた相手に不思議に思って顔を見上げると、すぐに言葉の意味を理解した。フードから出てきた顔は猫耳を生やした褐色肌の少女の顔が露わになり、コウに対して満面の笑みを浮かべる。
どうやらコウと共に逃げていた少女はただの人間ではなかったらしく、獣人族と呼ばれる種族だと判明する。獣人族とは人間と獣の性質を併せ持つ種族であり、彼女の場合は猫の様な耳が生えている事から猫型の獣人という事になる。
獣人族は多種多様存在し、それぞれの動物の特徴を持つ。例えば犬型の獣人族は足が速く、猫型の獣人族は身軽、猪や熊のような獣人族は腕力に優れているなどそれぞれの動物の特徴を併せ持って生まれる。そしてコウの前に現れた少女は猫型の獣人族らしく身軽さを生かしてここまでコウを連れてきてくれた。
「ここまで逃げればとろいあいつらは追いかけてこれないからもう安心しなよ。それにしても兄ちゃん、災難だったな」
「お、お前な……別に逃げなくても何とかなったよ」
「そうとも言い切れないぜ?警備兵だからっていい奴ばかりだと思わない方がいいぜ。前に何も悪い事をしていない奴等を捕まえて悪人に仕立て上げようとした悪い奴もいるからな」
「何だそれ……?」
猫耳の少女はこの街の警備兵の事を一切信用しておらず、彼女は苛ついた表情を浮かべながら街の風景を眺める。少女の言葉にコウは不思議に思いながらも改めて彼女の容姿を確認する。
少女の年齢は恐らくは10才ぐらいであり、コウよりも頭一つ分小さい。髪の毛の色は黒髪で肩まで伸ばしており、黄色の瞳と褐色肌が特徴的だった。顔立ちは整っているので美少女と言っても過言ではないが、フードで身体を隠しているので尻尾は見えない。
「お前、何者だ?どうして俺を助けようとした?」
「へへへっ……言っておくけどただで人助けする趣味はないぜ」
「何を行って……あ、それ!?」
コウは少女の言葉に疑問を抱くと、彼女は懐に手を伸ばして小袋を取り出す。それを見たコウは驚き、彼女が取り出したのはコウの財布だった。少女は財布の中身を確認して舌なめずりを行う。
「へえ~結構持ってるじゃん。兄ちゃん、実は意外と金持ちなのか?」
「こら、返せっ!!」
「大丈夫だって、ちゃんと返してやるよ。但し、これぐらいは貰わないとな!!」
少女は財布の中に手を突っ込み、掌で掴めるだけの銅貨を取り出す。そしてコウに小袋を放り込むと、彼女は再び屋根の上を駆けだして別の建物に飛び込む。
「じゃあな、兄ちゃん!!また今度会った時は飯でも奢ってくれよ〜!!」
「おいこら!!待てっ!?」
自分の持って来たお金の3割近くを持ち逃げした少女にコウは怒鳴りつけるが、彼女は瞬く間に建物を飛び越えて姿が見えなくなった――
――思いもよらぬ事態に巻き込まれたコウは少しだけ軽くなった財布を手に路地裏に降りる。彼は疲れた表情を浮かべ、路地裏でしばらくの間は座り込んで身体を休ませる。
「くそっ、あの盗人め……今度会ったら覚えてろよ」
財布を取り返したコウは自分から金を盗んだ少女に悪態を吐きながらも座り込む。警備兵から逃げる途中でコウは建物の屋根の上を跳躍するという無茶をしてしまい、その反動で少しだけ身体を痛めてしまった。
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