第24話 街へ

「じゃあ、爺ちゃん。行ってくるからスラミンの事は頼んだよ。餌は水か果物の果汁をあげると喜ぶからよろしくね」

「あ、ああ……しかし、こんな朝早くから行くのか?」

「ぷるぷるっ……」



コウはスラミンをアルに任せると、まだ夜が明ける前から街に向けて出発する準備を行う。村から街までは馬でも数時間は掛かるため、早めに出向いて昼までには村に辿り着きたかった。


村の人間から借りた馬にコウは乗り込み、乗馬の技術もこの一年半の間に覚えた。旅をするならば馬が必要になるため、彼は村で一番足が速い馬を借りて街へと向かう。



「じゃあ、二人とも行ってくるよ」

「ヒヒンッ!!」



馬に乗り込むとコウはスラミンとアルに別れを告げて出発し、街がある方向へ馬を走らせた――






――コウが向かう街の名前は「イチノ」と呼ばれ、コウが暮らす村の10倍以上の人間が暮らしている。街は城壁で囲まれており、東西南北の城門には警備兵も配置されている。


最近は世界各地に危険区域が出現し、このイチノも例外ではなく、イチノの北側に存在する鉱山にも魔物が出没するようになった。元々はイチノは鉱山で採取できる鉱石を売買していたが、最近は魔物のせいで鉱石も簡単に手に入りにくくなったという。



「えっ!?また街の入場料が値上がりしたんですか!?」

「ああ、魔物のせいで鉱山から鉱石を採掘するためには冒険者を雇わなければならなくなったからな……すまんな」

「冒険者……この街に冒険者が来てるんですか?」



冒険者がイチノに来ているという話を聞いてコウは驚き、冒険者の事は彼も知っていた。世間一般では冒険者は魔物の退治屋という認識があり、彼等は一般人が立ち入りを禁止されている危険区域にも立ち寄る事が許可されている。


全ての冒険者は冒険者ギルドという組織に所属する事が義務付けられており、冒険者ギルドに所属していない人間は冒険者を名乗る事は禁じられている。もしも資格がない人間が冒険者を名乗った場合、重罪を課せられるとコウは聞いた事があった。それほどまでに冒険者は国側からも重要視された存在であり、そんな冒険者がイチノに赴いていると知ってコウは興味を抱く。



(冒険者がこの街に来ているのか……ちょっと気になるけど、今は魔術書を買うのを優先しないとな)



コウは冒険者というのがどんな存在なのか気になったが、ここへ来た目的はあくまでも魔術書を購入するためであり、今回は我慢して魔術書が販売している店を探す事にした。



「あの、馬を預かって貰えますか?」

「それは構わないが、その分料金も高くなるぞ」

「大丈夫です」



城門の兵士にコウは馬を預かってもらい、彼は街の中へ入った。この街には何度かコウも訪れたが、いつもアルが一緒だったので一人で訪れるのは初めてだった。



(うわっ……凄い人だな、流石は街だ)



街の中に入ると大勢の人間が街道を歩いており、コウが暮らしている村とは比べ物にならない住民の数に圧倒される。しかも街の住民だけではなく、外部から訪れた人間も多く含まれている。


街を歩く人間の中には武装した人間もちらほらと見え、最近は魔物があちこちに現れるようになったせいで護身用の武器を持ち歩く人間も増えてきた。もしかしたら武装した人間の中には冒険者もいるかもしれず、コウは物珍しそうに周囲を見回しながら街中を歩く。



(う〜ん、魔術書は何処で売ってるんだろう?)



適当に街を歩きながらコウは魔術書が販売されていそうな店を探すが、それらしい店は見つからずに困り果てる。



(やっぱり街の人に聞くしかないかな……ん?)



街の住民に魔術書が販売されている店を訪ねようとした時、コウは人だかりを発見した。何事かと思った彼は人だかりに近付くと、どうやら誰かが喧嘩しているようだった。



「このアマ!!俺様を誰だと思ってやがる!!」

「全く、これだから人間は……」

「んだと!?このくそエルフ!!」



人だかりの中心にいるのは金髪の髪の毛を肩の部分まで伸ばした女性と、大柄で髭面が目立つ男性だった。どうやら女性に対して男性が一方的に突っかかっているらしく、いったい何事かと集まっていた人間にコウは尋ねる。



「あの、何かあったんですか?」

「ん?いや、あの男がエルフの女の人に絡み始めたんだよ。足を踏んだとかどうとか……」

「エルフ?」



先ほども大男が女性に対して「エルフ」と呼んでいた事を思い出し、改めてコウは女性の容姿を伺うと驚愕した。金髪の女性は美女といっても過言ではない程に容姿が整っており、よくよく見ると集まっている人間の多くは男性だった。


金色に輝く髪の毛に宝石のように煌めく碧眼、無駄な肉が一切ないスレンダーな体型をしており、腰元にはレイピアを想像させる剣を差していた。エルフの女性は自分に突っかかってくる男性に対して全く物怖じせずに言い返す。

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