第18話 コウの決意

――祖父と合流を果たし、無事に村に戻る事ができたコウは一日中目を覚ます事はなかった。それほどまでに疲労が蓄積され、彼が目覚めたのは翌日の昼間だった。その間にドルトンと他の村人は山の異変の調査を行う。


結論から言えばコウの予測通りに現在の山には魔物が住み着いている事が判明した。コウが倒したゴブリンの他にも数種類の魔物の姿が確認され、原因は不明だがコウ達が訪れた山は危険区域ダンジョンと化す。


実を言えばコウの暮らす村の近くの山以外にも他の地域で同じように魔物が目撃されていた。先日にルナが戻って来た時、村長に彼女は驚くべき話を伝える。現在世界各地で危険区域が唐突に出現しているらしく、それに対処のためにルナは動いているらしい。


このように世界各地で唐突に危険区域が出現する現象は過去の時代にも何度かあったらしく、研究者の間では「世界異変」と呼ばれる現象らしい。世界異変が起きると魔物が数を増やし、危険区域が増えていく。


世界異変の影響でこれまでは魔物が現れない地域にも魔物が出現する可能性が高まり、それの対処のために各国が協力し合って問題の対処を行う必要があった。その話を聞かされたのはコウは初めてであり、実を言えば彼以外の人間は既に知っていたという。



「たくっ、お前がルナちゃんと喧嘩しなければちゃんと話を聞けただろうに……酷い目に遭ったのは自業自得だ」

「うっ……そんな事を言われても」

「とにかく、もう無茶な真似はするんじゃないぞ!!魔物は俺達が狩る動物よりもよっぽど恐ろしい生物なんだ!!」

「ぷるぷるっ?」

「……まあ、例外はいるがな」



コウはすっかり元気を取り戻したアルに看病してもらい、この時にスラミンも一緒に居た。魔物であるスラミンが危険区域の外に抜け出しても大丈夫なのかと思ったが、今の所は元気そうにコウの傍で過ごしていた。



「ぷるるんっ!!」

「よしよし、お前は元気そうだな……そういえば爺ちゃん、星水は飲んだの?」

「あ、ああ……一応飲んだが、ありゃいったい何だ?もうすっかり元気になっちまったぞ」



家に戻った時にアルはスラミンの体内に保管していた星水を飲んだらしく、そのお陰もあって彼の体調は万全に戻っていた。しかし、体調は戻ったのは良いがスラミンが吐き出した星水を飲む羽目になったアルは複雑そうな表情を浮かべる。



「だから言ったでしょ、山の中に全回復の泉を見つけたって……」

「いや、けどよ……あれはおとぎ話だぞ?」

「でも実際にあった事を絵本にしてるんでしょ?」

「う〜ん……まあいいか、それと言っておくが全回復の泉の事は他の人間には内緒にするんだぞ。もしも存在を知られたら大変な事になるからな」

「うん、分かったよ」

「ぷるんっ」



コウの話を聞いてアルは山奥の洞窟に全回復の泉がある事を知ったが半信半疑だった。確かにスラミンが蓄えた水を飲んだ途端に彼は体調が復帰したが、それでも危険区域の最深部にしか存在しない全回復の泉を見つけたと言われても素直に信じ切れない。


しかし、本当に全回復の泉を見つけたというのならば無暗に他の人間に話すわけにひゃいかない。もしも村の人間の誰かが病や怪我を負った時、全回復の泉の存在を知れば取りに行こうとする人間が現れるかもしれない。だが、既に山は危険区域と化しており、そんな場所に入り込めば命の保証はない。



「そうそう、お前が眠っている間にあの山の名前が付けられたぞ」

「名前?なんで?」

「危険区域になった場所は必ず名前を付ける必要があるんだとよ。あの山の名前はこれからは「魔の山」と呼べ」

「魔の山……なんかちょっと子供っぽいね」

「そうだな……まあ、覚えやすくていいんじゃないのか?」



まるで絵本に出てきそうな名前にコウは呆れてしまうが、逆に分かりやすいので子供も覚えやすく、今後は山の事を魔の山と呼ぶ事に決まった。危険区域に指定された以上、もう無暗に山に登る事は辞めるようにアルは注意する。



「いいか、もうあの山には近づくんじゃないぞ。魔物が現れると分かった以上はお前みたいな半端者のガキを行かせられないからな」

「半端者って……」

「何だ?文句があるなら猪か熊でも狩ってこい!!約束しただろ、俺はお前が一人で狩猟できるようになるまでは認めないって!!」

「……そうだったね」



コウはアルの言葉を聞いて約束した事を思い出し、まずは彼の言う通りに一人で狩猟を成功させて祖父に認めて貰う事を決めた――






――それから一か月後、村では大きな騒ぎが起きた。狩猟に出向いたコウが戻ってくるなり、他の村人に頼んで山(魔の山ではない)で狩った猪を運び込むのを手伝ってもらう。


コウが一人で猪の狩猟に成功したと知ってアルは慌てて駆けつけるが、コウは彼が来ると自分が倒した猪を見せつけて何事もなさそうに語り掛ける。



「これでいいんだよね、爺ちゃん?」

「コ、コウ……お前、まさか本当に一人でこれほどの大物を仕留めたのか!?」

「大物ね……」



猪を倒したコウにアルは度肝を抜かれ、数日前の彼ならば猪どころか兎すらもまともに狩る事はできなかった。しかし、ゴブリンとの死闘を経験したお陰かコウは精神的に大きく成長し、もう猪程度の相手に怯える事はなくなった。



「こんなの魔物と比べたらなんてことはないよ」

「お、お前……いったいどうしたんだ?」

「それよりも爺ちゃん、今度は爺ちゃんが約束を守る番だよ」



コウの変貌にアルは戸惑うが、彼は祖父に振り返って約束を果たして貰うために頼みごとを行う――

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