第17話 凡人の意地

(今度こそ仕留めるんだ!!)



最初にゴブリンに襲い掛かった時、コウは恐れを抱いて本気で斧を振りかざす事ができなかった。しかし、そのせいで彼は反撃を受けて死にかけた。だからこそ今度は躊躇せずに全力で斧を振りかざす。



「喰らえぇえええっ!!」

「ギィアッ――!?」



ゴブリンの頭部に目掛けてコウは全力で斧を振りかざし、それを見たゴブリンは目を見開く。斧の刃はゴブリンの頭にめり込み、落とし穴の中で血飛沫が舞う。


斧の刃がゴブリンの頭部に深々と食い込み、大量の血が噴き出す。それを見たコウは勝利を確信したが、彼は魔物の生命力を甘く見ていた。



「ギャアアアッ!?」

「うわぁっ!?」



頭に斧が突き刺さったにも関わらずにゴブリンは立ち上がり、大量の血を流しながらもコウに襲い掛かった。ゴブリンはコウを押し倒すと両手で彼の首元を締め付ける。



(こいつ、まだこんな力が……!?)



必死にコウはゴブリンを引き剥がそうとするが、文字通りに死力を尽くしてゴブリンはコウを殺そうとしてきた。自分が死ぬ事は免れないと判断した上でゴブリンはせめてコウを道連れにしようと腕に力を込める。


どうにかコウはゴブリンの腕を振り払おうとするが、単純な力は人間である彼では魔物のゴブリンには敵わない。魔物に対抗するには今の彼はあまりにも非力過ぎた。



(やばい、死ぬ……!?)



全力で自分を殺しにかかるゴブリンに対してコウは再び恐れを抱き始めるが、この時に彼は夢の中の出来事を思い出す。彼は幼い頃の自分に誓った事を思い出し、この程度の相手に負けるようでは勇者ルナに追いつけるはずがない。



(嫌だ、死にたくない……こんな所で死んでたまるか!!)



瞳に光を取り戻したコウは渾身の力を発揮させ、かつてゴブリンに襲われた時のように鹿で対抗する。肉体の限界まで力を引き出したコウはゴブリンの顔面に食い込んだ斧を見て掴む。



「ああああああっ!!」

「ギャアアアッ!?」



自分の首を絞めつける腕ではなく、敢えてゴブリンの顔面にコウは手を伸ばすと斧がさらに頭が食い込んだゴブリンは悲鳴を上げた。苦痛のあまりにゴブリンの両腕の拘束が弱まり、それに気づいたコウは力尽くで引き剥がす。



「離れろっ!!」

「ギャンッ!?」



ゴブリンを引き剥がすためにコウは蹴りを入れ、遂にゴブリンは地面に倒れ込む。この時にコウを救うためにスラミンがゴブリンに目掛けて体内の星水を放つ。



「ぷるっしゃあああっ!!」

「ギャアアアアッ!?」

「うわっ!?」



スラミンがゴブリンの顔面に目掛けて星水を放った瞬間、ゴブリンは悲鳴を上げて転がり込む。ゴブリンは星水を浴びた瞬間にもだえ苦しみ、顔をむちゃくちゃにかきむしる。


以前にコウは星水が「魔除け」の効果があると聞いていたが、どうやらその話は嘘ではなかったらしく、魔物であるゴブリンは星水を浴びた途端に悲鳴を上げて暴れまわる。それを見たコウは止めを刺す好機だと判断し、服の中に隠していた投石用の石を取り出す。



「うおおおおっ!!」

「ギィアッ――!?」



石を両手で掲げたコウはゴブリンに対して飛び込み、勢いよく石を顔面に目掛けて振り下ろす。ゴブリンは避ける暇もなく、顔に食い込んだ斧に石が衝突した瞬間、脳にまで刃が達した――






――数分後、コウはスラミンを抱きかかえた状態のまま呆然と落とし穴の底で座り込んでいた。彼の目の前にはゴブリンの死骸が横たわっており、そしてコウの手には刃が欠けた斧が握りしめられていた。



「はあっ、はあっ……勝った、勝ったんだ」

「ぷるんっ!!」



コウの言葉を肯定する様にスラミンは彼に頬ずりし、そんなスラミンを抱きしめながらコウは遂に魔物を倒した事に興奮する。ゴブリンは熊以上に恐ろしい存在であり、少し前のコウならばどうしようもできない相手だった。しかし、彼は勇者を越える事を決意し、恐ろしい魔物に立ち向かう勇気を手にする。


勿論、今回の勝利はスラミンの協力があったからこそ勝てたが、魔物をコウが倒した事実に変わりはない。彼は初めて魔物に勝利した事に嬉しく思うが、あまり喜んでばかりではいられない。



「……そろそろこの落とし穴から抜け出さないとな。けど、どうしよう」

「ぷるるんっ……」



コウはどのように落とし穴から抜け出せばいいのか悩んでいると、ここで彼は上の方から聞き覚えのある声を耳にした。その声を聞いた途端、コウは驚愕の声を上げる。



「お〜い!!コウ、この中にいるのか!?」

「その声は……爺ちゃん!?」

「ぷるんっ!?」



落とし穴の上から聞こえてきたのは村にいるはずのコウの祖父のアルの声であり、驚いたコウは見上げるとそこにはロープを持ったコウのアルの姿があった。



「おおっ!!やっと見つけたぞ、この馬鹿!!そんな所で何してるんだ!?」

「爺ちゃん、どうして……家で寝てたんじゃないの?」

「馬鹿野郎!!お前がいつまでも帰ってこないから心配で迎えに来たんだぞ!!お陰で体調が悪いのなんて吹っ飛んじまった!!」

「何だよそれ……」



コウが戻ってこない事にアルは心配し、彼は体調不良である事を忘れて迎えに来たという。コウはアルの言葉に呆れながらも、彼に力を貸して貰って落とし穴から抜け出した――

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