第16話 罠
「よし、もう少しだ……行くぞ!!」
「ぷるんっ」
コウは山を下りるために駆け出そうとした瞬間、彼は微妙に色が違う地面に足を踏み込んだ瞬間、地面が崩れて落ちてしまう。
「うわっ!?」
「ぷるるんっ!?」
何が起きたのか一瞬理解できなかったがコウとスラミンだったが、すぐに落とし穴に嵌まった事に気付く。コウはどうしてこんな場所に落とし穴があるのかと焦るが、すぐに彼の脳裏にゴブリンの顔が思いつく。
(まさか……あいつの仕業か!?)
ゴブリンはコウが戻ってくる事を予想して事前に落とし穴を作り出し、まんまとコウは罠に嵌まってしまった。まさか魔物が人間を嵌めるための罠まで用意するとは思わず、彼は慌てて落とし穴から抜け出そうとした。
落とし穴はかなり深くまで掘られており、壁をよじ登る事も難しい。誰かの助けを借りなければ抜け出す事はできず、コウは顔色を青くする。
(駄目だ、高過ぎる……どうすればいいんだ!?)
ゴブリンがいつ現れるかも分からない状況で落とし穴に引っかかったコウは焦り、もう駄目かと思った時、彼の足元にいたスラミンが何かを伝えるように呼び掛ける。
「ぷるぷるっ!!」
「うわっ!?何だよこんな時に……」
「ぷるるんっ!!」
スラミンは落とし穴の中で跳ねまわり、それを見たコウはスライムの弾力性と跳躍力を生かせばスラミンだけは落とし穴から脱出できる事に気付く。
「そうか、お前だけならここから抜け出せるのか……頼む、お前ひとりで村まで行って誰か連れて来てくれ!!」
「ぷるんっ!!」
コウは駄目元でスラミンの身体を持ち上げ、彼を落とし穴から脱出させて村まで向かうように頼む。魔物であるスラミンが村に訪れれば混乱を招きそうだが、スライムは魔物の中でも人間に害を与えない存在として有名なので始末される事はないだろう。
「よし、頼んだぞ!!」
「ぷる~んっ!!」
スラミンを抱えたコウは勢いよく持ち上げると、スラミンは自分の肉体の弾力を生かして大きく跳躍し、見事に落とし穴から脱出する事に成功した。それを見たコウはスラミンだけでも逃げ切る事を祈り、彼が村人を連れてくる事を期待した。
穴の底に残されたコウは冷や汗を流し、両手には石を握りしめる。もしもゴブリンが現れたらこの石を投げつけて応戦するしかなく、できればゴブリンが現れる前にスラミンが戻ってきて村人を連れてくる事を祈る。
(頼む、誰か早く来てくれよ……!!)
コウは必死に祈るがその彼の儚き願いは届かず、上の方から聞き覚えのある鳴き声が響いた。
「ギィイイイッ!!」
「……くそっ!!」
落とし穴の上からゴブリンの醜悪な顔が現れ、それを見たコウは悪態を吐きながら手にしていた石を投げつける。しかし、前回の事もあってかゴブリンはコウが石を振りかぶると慌てて頭を引いて投石を避けた。
「ギッギッギッ!!」
「……笑ってるのか、お前」
ゴブリンは落とし穴に嵌まったコウを見下ろして笑い声をのような鳴き声を漏らし、それを見たコウは怒りを抱く。しかし、この状況ではゴブリンに対抗する事はできず、このままでは殺されてしまう。
どうにか反撃の手段を考えたが、落とし穴の中に使えそうな物はなく、一応は投石用として持って来た石は一個だけ余っていた。この最後の一個を投げ込めばコウは反撃の手段を失う。
(どうすればいいんだ……諦めるな、考えろ!!)
危機的状況に追い詰められたコウだが、昨日と違って彼は諦めるつもりはなかった。もう自分がただの「凡人」だという理由だけで諦める事は辞めにした彼は必死に数多を巡らせる。
(ここから抜け出す方法は本当にないのか!?くそ、何かないのか……ん!?)
考えている間にもゴブリンは落とし穴のコウに対して彼から奪った斧を取り出す。どうやら直接飛び降りてコウに止めを刺すつもりらしく、ゴブリンは鳴き声を上げて落とし穴に飛び込もうとした。
「ギィイイイッ!!」
「くっ!?」
「ぷるるんっ!!」
しかし、ゴブリンが飛び降りようとした瞬間にスラミンの鳴き声が響き渡り、落とし穴の前に立っていたゴブリンの背中に体当たりを食らわせる。その結果、ゴブリンは体勢を崩した状態で落とし穴の中に落ちてしまう。
「ギィアアアッ!?」
「うわぁっ!?」
「ぷるぷるっ!!」
ゴブリンを巻き込んでスラミンも落とし穴の中に飛び込むと、ゴブリンは頭から穴の底に衝突し、この時に手にしていた斧がコウの足元に飛んできた。危うく足に当たる所だったのでコウは悲鳴を上げるが、一方でゴブリンを落としたスライムは倒れたゴブリンの頭の上で跳ねまわる。
「ぷるぷるっ!!」
「ギィイッ!?」
「お前、何でここに……いや、よくやった!!」
事情はどうであれゴブリンが自ら落とし穴の中に降りてきた事でコウは反撃の好機を手に入れた。彼は地面に転がっている斧を拾い上げ、落下の際に頭を打って軽い脳震盪を引き起こしたゴブリンの元へ向かう。
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