第15話 魔除けの効果
「そういえば絵本の内容だと星水は魔除けの効果があるとか……だから魔物は全回復の泉に近付けないはずだけど、お前は平気なのか?」
「ぷるんっ?」
「……まあ、絵本だもんな」
全回復の泉には魔物は近づけないため、
コウは洞窟を出る前に泉の水を両手で汲んで飲み干すと、驚く事に先ほどまで感じていた疲れが一気に亡くなった。洞窟で眠っていたせいで身体のあちこちが痛かったが、星水を飲んだ途端に疲れも痛みも吹き飛ぶ。
「凄いな、これ……待てよ、これを持って帰れば爺ちゃんの病気も治せるんじゃないのか!?」
体調を崩して現在は家で休んでいる
実際にコウは聖水を浴びただけで左腕と背中の傷が治り、今も飲んだだけで体力を完全回復させた。コウはどうにか聖水を持ち帰る方法がないのかを考えるが、ここで彼はある事を思い出す。
(あっ、でも爺ちゃんの話だと星水は持ち帰っても一定の時間を過ぎると効力を失うんだっけ……)
絵本の主人公は聖水を持ち帰って弟を助けたが、実際の所は本物の星水は泉から汲んでもある程度の時間が経過すると効力を失い、ただの水と化してしまうとアルは語っていた。一定の時間というのがどの程度の時間なのかはコウも知らないが、それでも彼はアルを助けるためにどうにか聖水を持ち帰る方法がないのかを考える。
「こいつの効力が切れる前に爺ちゃんの所に戻らないと……となると、やっぱりお前の力が必要だな」
「ぷるんっ?」
コウは自分を見上げるスラミンに視線を向け、スラミンは星水を体内に蓄える事ができるため、彼を家まで連れて行けばアルを治療する事ができるかもしれない。しかし、ここでコウが気になったのは魔物が危険区域を離れると長生きはできないという点である。
(もしもこの山が危険区域と化していたら、こいつは山に居る限りは大丈夫だ。でも、村に連れ帰ったらこいつはどうなるのか……いや、考えている暇はない)
ここまでコウはスラミンに色々と世話になったが、祖父を助けるためにはどうしてもスラミンの力が必要だった。それに危険区域に出たとしても魔物はすぐに死ぬと決まったわけではなく、アルを治療した後にスラミンを山に戻せば問題はない。
「よし、行くぞ相棒」
「ぷるるんっ!!」
「うわ、そんなデカくなった状態で頭に乗るなよ……お、重い」
星水をたっぷりと吸収したスラミンは最初に出会った時よりも一回りは大きく、流石に頭に乗せると首が痛くなったコウはスラミンを抱えて洞窟の外に出る事にした――
――洞窟を抜け出したコウはゴブリンに見つからないように慎重に進み、その一方でスラミンが吸収した星水の効力が切れるまでに村に戻る必要があった。どの程度の時間で星水の効果が切れるのかは不明だが、コウはスラミンの輝きを確認しながら川を下る。
(今の所は光ったままだな……でも、光が弱くなったら星水の効果が切れかかっているのかもしれない。注意しておかないとな)
スラミンが光を放つのは体内に吸収した星水の効果であり、もしも輝きを失ったら星水の効力が切れた事を意味する。そうなる前にコウはスラミンを連れて山を下りる。
幸いにも夜と比べて日中の間はスラミンが輝いていても目立つ事はなく、最悪の場合はコウはスラミンを覆い込む事で光を抑えられる。また、スラミンは魔物以外にも動物の気配にも敏感らしく、何かが近付いてくるのを察知するとコウに伝えた。
「ぷるるるっ……」
「うわっ……近くになにかいるのか?」
抱きかかえたスラミンが震え出したのでコウは周囲を見渡し、隠れられる場所を探す。運がいい事に大きな岩があったので彼は身を隠すと、森の方から猪が姿を現わす。
「フゴッ、フゴッ……」
「「…………」」
猪は川の水を飲みに来たらしく、コウ達に気付く事もなく水を飲んで立ち去る。それを見送ったコウ達は安堵するが、すぐに移動を再開した。
「お前が一緒で心強いよ、相棒」
「ぷるぷるっ♪」
コウの言葉にスラミンは嬉しそうな声を上げ、やがて二人はゴブリンに最初に襲われた場所の近くを通り過ぎる。あと少しで山が下りられる場所にまで辿り着き、コウは少しだけ気が抜けてしまった。
(もうすぐだ、もうすぐで山を下りられる……大丈夫、スラミンも光っている。これなら間に合いそうだ)
洞窟を出てから1時間ほど経過したが、スラミンは輝きを失ってはいなかった。しかし、最初の頃と比べるとほんの僅かではあるが輝きが弱まているように感じ、コウは急いで村に戻る必要があると判断して急ぎ足で向かう。
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