第13話 洞窟の奥には

「お前、また光ってるぞ……まさか!?」



輝きを取り戻したスラミンを見てコウは不思議に思い、本来であれば月が出た時にしか花が開かないはずの月華が反応したのはスラミンの放つ光のせいで間違いない。



(まさか月華はこいつの光に反応しているのか?でも、いったいどうして……そもそもなんでこいつは光ってるんだ?)



スライムに発光能力があるなど聞いた事がなく、よくよくみると一緒に行動していた時よりもスラミンの体型が一回り程大きくなっている事に気付く。最初に出会った時と同じ格好に戻っており、前の時はコウの怪我を治すために光り輝く液体を吐き出した途端に縮んだ。


恐らくだがスライムという生き物はは体内に大量の水分を含む事ができるらしく、現在のスラミンは最初にコウの怪我を治した時に吐き出した水と同じ物を体内に含んでいる。そしてスラミンが奥の方から現れたのを思い出したコウは洞窟の奥に何かがあると判断する。



「……奥に行ってみよう。行くぞ、相棒」

「ぷるんっ!!」



コウはスラミンを抱き寄せると彼の放つ青色の輝きを灯り代わりに利用して奥に進む。洞窟の中を照らしながらコウはしばらく歩くと、奥の方から青色の光を見つけた。



「な、何だ?」

「ぷるぷるっ」

「……行くしかないか」



洞窟の奥で光を確認したコウはスラミンに促されるままに歩み、彼は神秘的な光景を目にした。洞窟の一番奥は広大な空洞が存在し、そこには美しく青色の光を放つ泉が湧いていた。


青く光り輝く泉を見てコウは唖然と立ち尽くし、一方でスラミンは彼の元を離れると泉の傍に移動する。泉の周囲には月華が生えており、どうやらスラミンはここに生えている月華を引き抜いてコウの元に運んできたらしい。



「ぷるぷるっ♪」

「な、何だこれ……水が光ってる?どうなってるんだ!?」



コウは戸惑いながらも泉へと近づき、青く光り輝く泉の水も気になったが、本来であれば月の光が浴びられる場所でなければ生えないはずの月華が洞窟の中に生えている事も驚きだった。



(これは本物の月華だ。でも、どうして月も出てないのに花が開いて輝いてるんだ?)



月華は本来であれば月の光を浴びなければ花は開かず、光り輝く事もない植物である。しかし、まるで泉から湧きあがる青色の輝きを放つ水の光に反応して月華が輝いているように見えた。


恐る恐るコウは泉の水に手を伸ばすと、青く光ってはいるが触れた感じはただの水だった。これだけ光り輝いているのに熱くはなく、だからと言って冷たすぎるわけでもない。



「お前、まさかこの水を飲んだから光ってるのか?」

「ぷるんっ」



コウの言葉にスラミンは肯定するように頷き、泉に近付いて美味しそうに泉の水に口を付ける。スラミンが泉の水を飲み込んだ途端に発光が強まり、僅かに身体が膨らんだ。



(やっぱり、こいつはここの水を飲んだからあんなに輝いているのか……待てよ、確かあいつが吐き出した水を浴びた途端に怪我が治った。という事はこの泉の水はまさか……!?)



光り輝く泉の水を覗きながらコウは持ち歩いていた石を取り出し、覚悟を決めて彼は自分の左腕に石を叩きつけた。結構な勢いで石を叩きつけたせいで彼の左腕は赤く腫れあがり、コウは必死に痛みを我慢しながら泉に近付く。



(もしも俺の予想が当たっていれば……)



緊張しながらもコウは痣が残った左腕を泉の水に付けた。その直後、水の中でコウの左腕の腫れが元に戻り、ほんの数秒で彼の左腕は怪我をする前と同じ状態に戻った。



「なっ!?そ、そんな馬鹿な……まさか、これって!?」

「ぷるんっ?」



左腕の痛みが引いて怪我が完璧に治った事にコウは動揺を隠せず、彼は尻餅をついて光り輝く泉を覗き込む。この泉の正体に気付いたコウは呆然と呟く。




「――全回復の泉」




幼い頃、コウの両親がまだ生きていた頃の彼は今からでは想像できない程に病弱な子供だった。頻繁に熱を出しては家の中で寝て過ごす事が多く、それを心配した両親はコウのために必死に働いて遠くの街まで薬を買いに出かけていた。


両親が薬を買うために働いている間は祖父のアルが彼の面倒を見てくれた。アルは熱のせいで碌に身体が動かないコウのために絵本を読み聞かせてくれたが、その絵本の中に大病に侵された弟を救うために旅に出た兄の物語があった。




物語の内容は母親と父親と弟を持つ青年が主人公であり、青年の弟がある時に命を落としかねない病を患った。医者によればこの病の治療法は発見されておらず、もう諦めるしかないという。


しかし、青年は弟を救うために両親に彼の事を任せて旅に出た。青年は風の噂でどんな病気や怪我を治せる水が湧くという「全回復の泉」なる存在を探して旅に出た。


長い旅路の末に青年は全回復の泉があるのは魔物の巣窟だと知り、彼は旅の道中で仲間にした者達と共に命を懸けて泉が湧きあがる場所へ辿り着いた。そして彼は見事に全回復の泉から水を持ち帰り、病気の弟を救う。


絵本としてはありがちな内容だが、この絵本の一番凄い事は事実を基にして造り出されたという事だった。絵本で出てきた「魔物の巣窟」とは「危険区域ダンジョン」の事を示しており、全回復の泉に関しても実際に存在する事は証明されていた。

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