第12話 過去の自分との誓い
スラミンがいなくなってからしばらくした後、コウの意識が途切れて彼は夢を見た。その夢は幼き頃の自分とルナが村の中で遊ぶ姿だったが、一緒に遊んでいたはずのルナが急にいなくなってしまった。
『ルナ!?おい、何処に行ったんだ!?』
コウがいくら呼びかけてもルナの返事はなく、彼は必死に探し回ったが見つかる事はなかった。やがて探す事を諦めた子供のコウはその場に伏せて泣きじゃくる。
『ルナ……ルナァアアッ!』
情けなく幼馴染の名前を泣き叫ぶ幼い頃の自分の姿を見てコウは胸が痛み、同時に悔しく思う。みっともなく幼馴染の名前を叫ぶ自分自身を見てコウは怒りを抱く。
『いつまで泣いてるんだお前!!』
『……えっ!?』
何時の間にかコウは幼い自分の前に立っており、いきなり怒鳴りつけられた子供の頃のコウは戸惑う。だが、そんな彼に対して現在のコウは叱りつける。
『いくら泣いたってあいつはもう戻ってこない!!もうあいつは勇者なんだ!!』
『ゆ、勇者……?』
『そうだよ!!あいつは……俺達のような凡人とは違うんだ!!』
コウの声が周囲に響き渡り、幼いコウは顔を伏せて何も話さなくなった。そんな彼にコウは手を伸ばし、もうルナを探すのは辞めるように促す。
『いくら探しても呼びかけてもあいつはもう戻ってこない』
『でも、でも僕はルナと会いたいよ……もっと一緒に居たいよ!!』
『……俺達には無理なんだよ。だって、俺達は普通の人間なんだから』
『そんなの関係ないよ!!』
ルナを追う事を諦めるようにコウは説得したが、幼いコウはその話を聞いて激怒した。コウは幼い頃の自分に怒鳴られるとは思わずに驚くと、幼いコウは彼の胸元に何度も拳を叩きつける。
『僕は……僕達はルナの友達だ!!それなのになんで簡単に諦めちゃうんだよ!!』
『でも、俺達はあいつみたいに力なんてないんだ。だから一緒に居る事は……』
『だったら強くなればいい!!今よりも強くなればルナの傍に居てもいいでしょ!?』
『……簡単に言うな!!俺だって頑張って強くなろうとしたけど……あいつのように強くはなれなかった』
久しぶりに再会した幼馴染の事を思い出し、たった一年の間にルナは成長した。勇者である彼女に凡人の自分が追いつく事など有り得ないと思っていた。しかし、そんな彼に対して子供のコウは言い放つ。
『凡人だからって何なんだ!!自分が弱いのをルナのせいにするな!!』
『っ!?』
『ルナが勇者だらかって何だ!!僕達が凡人だから諦めるって何だ!!そんなの強くならなくていい理由にはならない!!僕は……僕達だって強くなれるんだ!!』
子供のコウの声が響き渡り、その言葉を聞いた現在のコウは呆気に取られたが、今まで感じていた心の靄が消えたような気がした。確かに子供の自分の言う通り、コウは今まで自分がルナのように強くなれないと思い込んでいた。
コウも強くなるために努力してきた。しかし、再会したルナの成長ぶりを見て心が折れてしまった。しかし、幼い頃の自分の言葉を聞いてもう強くなる事を諦める理由をルナのせいにするのは辞めにした。
『ああ、そうだな……お前の言う通りだ。やっと気づいたよ』
『……なら、もう行きなよ』
『そうだな……ありがとう』
『変なの、自分にお礼を言うなんて……』
『ははっ、それもそうだな』
幼いコウと現在のコウは顔を見合わせて笑い合い、徐々に周囲の景色が白く染まっていく。もうすぐ夢から覚める事に気付いたコウは最後に幼い自分に振り返り、一つだけ約束する。
『約束だ。俺はあいつのように……いや、あいつよりも強い男になる』
『……絶対だよ』
現在のコウは幼いコウに背中を向けて歩み出し、それを幼いコウは笑顔を浮かべて見送った―――
――次にコウが目を覚ますと、彼は洞窟の出入口の方から光が差している事に気付く。どうやら一晩中眠っていたらしく、コウは身体を起き上げると、いつの間にか自分の身体に見た事もない植物が乗っている事に気付く。
「うわ、何だこれ……」
「ぷるぷるっ!!」
「あ、お前……何処に行ってたんだ?」
コウは身体に張り付いていた植物を振り払おうとした時、洞窟の奥の方から口に植物を咥えたスラミンが姿を現わした。どうやらスラミンが植物を眠っていたコウの身体に置いていたらしく、恐らくは彼が寒くないように植物をわざわざ運んで身体にかけていたらしい。
「なるほど、そういう事か……俺を気遣ってくれたんだな。助かるよ相棒」
「ぷるぷる〜♪」
スラミンの頭を撫でると嬉しそうに擦り寄り、コウは身体に張り付いた植物を振り払おうとした時、不意に彼は植物の葉の形を見て驚く。
「えっ!?これって……月華!?どうしてここに!?」
「ぷるんっ?」
自分の身体に張り付いていた植物はかつて子供の頃にコウが幼馴染のルナと共に見た月華だと気付く。この月華は夜の間しか花を咲かせない珍しい植物なのだが、どうして洞窟の奥にこんな物があるのかと不思議に思う。
よくよくみるとコウの上に乗せられた月華は華を咲かせており、まだ朝だというのにどうして花が咲いているのかとコウは不思議に思う。この時にコウはスラミンに振り返ると、すぐには気付かなかったが彼の身体が最初に出会った時のように光り輝いている事に気付いた。
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