第11話 スライムの感知能力

「ぷるぷ〜るっ」

「うわっ!?何だよ急に……どうした?」



スライムはコウの頭の上から降りると岩の後ろに隠れ、耳のように生えている触角を動かしてこっちへ来いと誘う。スライムの行動にコウは不思議に思い、先ほど怪我を治して貰ったのでいう通りに従う。



「全く、何なんだよ……」

「ぷるるっ……」

「……静かにしろって言ってるのか?」



コウが岩の後ろに回り込むとスライムは口元を閉じ、それを見たコウは不思議に思いながらも口元を塞ぐ。しばらくの間は岩の後ろに隠れていたが、やがて岩の反対側から物音が聞こえてきた。


不思議に思ったコウは岩陰からこっそりと覗き込むと、驚く事に森の中から斧を手にしたゴブリンが姿を現わした。コウはそれを見て声を漏らしそうになったが、必死に口元を抑える。



(あいつ、ここまで追いかけてきたのか!?)



完全に振り切ったと思っていたがどうやら追いついてきたらしく、ゴブリンは周囲を見渡しながら鼻を鳴らす。コウは臭いで自分の居場所がバレたのかと思い、このままでは見つかってしまう。



(くそっ、どうすれば……そうだ、これをこうすれば!!)



コウは来ていた上着を脱いで岩陰に置くと、ゴブリンが見ていない内に他の場所に隠れようとした。この時にスライムが先行し、身体を弾ませて移動するのではなく、転がるように移動して別の大きな岩の後ろに隠れた。



「ぷるるっ……」

「…………」



スライムが先に移動したのを見てコウは後を追いかけ、この際にゴブリンに見つからないように移動に成功した。ゴブリンは最初にコウ達が隠れていた岩に近付き、彼が脱いだ上着を発見した。



「ギィイッ!!」



血がこびりついた上着を発見したゴブリンは鳴き声を上げ、上着があるのにコウの姿がない事に怒りを抱く。ゴブリンは上着を川へ放り捨てると周囲を振り返り、川の反対側の岸辺に視線を向けて移動する。


ゴブリンはどうやら上着が放置されている事からコウが向こう側の岸に泳いで渡ったと判断したらしく、どうにか危機を乗り越えたコウはスライムの頭を撫でる。



「た、助かったよ……相棒」

「ぷるんっ!!」



もっと褒めろとばかりにスライムはコウの身体に擦り寄り、そんなスライムを抱きかかえてコウはゴブリンが戻ってくる前に移動を行う。スライムがいなければコウは今頃はゴブリンに殺されており、改めてスライムに感謝した。



「お前、本当に凄いな……そういえば名前は何ていうんだ?」

「ぷるぷる?」

「ないなら俺が付けてやるよ。そうだな、スラミンでどうだ?」

「ぷる~んっ!!」



コウが付けた名前が気に入ったのかスライムは嬉しそうに彼の頭の上で弾み、スライム改めスラミンはコウと共に行動する。



(こいつ、多分だけど他の魔物の気配を感じ取れるんだ。ならこいつが傍にいれば他の魔物が近付いて来てもすぐに分かるんだな)



スラミンが優れた感知能力を持っていると判断したコウはしばらくの間は連れ歩く事に決め、またゴブリンが現れる前に場所を移動しようとした。コウは川を下ろうとした時、スラミンが何かを伝えるように鳴き声をあげた。



「ぷるぷるっ」

「うわっ……どうした?こっちは嫌なのか?」

「ぷるんっ」

「……こっちに行きたいのか」



下流ではなく、上流に移動する事をスラミンは勧め、先ほどの一件もあるのでコウはスラミンを信用して上流に向かう事にした。ゴブリンを振り切った今が下山の好機なのだが、スラミンの事を信じてコウは上流へ向かう。



「おっと、その前に……」



コウは岸辺に辿り着いたので念のために手ごろな大きさの石を掴み取り、万が一にゴブリンやあるいは熊や猪と遭遇した時に備えて投石用の石は回収しておく――






――スラミンの指示通りにコウは川を遡ると、やがて滝に辿り着く。コウも何度か見かけた事がある滝だが、スラミンは滝の裏側に向かうように促す。



「ぷるぷるっ……」

「うわっと……まさか、この滝の裏にこんな場所があるなんてな」



人間が一人通れる程の足場を移動しながらコウは滝の裏側に辿り着くと、そこには洞窟が存在した。洞窟はかなり奥まで広がっており、ここならば隠れるのに最適な場所だった。


洞窟に入ったコウはこの場所ならばゴブリンに気付かれる事はないと思い、安心して身体を休ませる事ができた。先ほどスラミンが怪我を治してくれたとはいえ、ここまで休みなく歩き続けたのでもう体力の限界を迎えていた。



「流石にきつい……少し休もう」

「ぷるぷるっ?」

「…………」



洞窟の岩壁に背中を預けたコウはひと眠りしようと瞼を閉じるが、その様子を見たスラミンは心配した表情を浮かべ、彼は勢いよく弾みながら洞窟の奥に移動する。

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