第10話 スライム
「何だ……?」
何処からか聞こえてきた音にコウは不思議に思い、まさかゴブリンが追いついたのかと彼は身体を起き上げる。しかし、周囲を見渡してもゴブリンの姿は見えず、気のせいかと思った時に足元から奇妙な鳴き声が聞こえた。
「ぷるぷるっ……」
「うわっ!?な、何だお前!?」
「ぷるんっ?」
コウが寝そべっていた岩の傍に青く光り輝く物体が存在し、驚いたコウは慌てて岩から降りると、青色の物体は彼が横になっていた岩の上に飛び乗る。
「ぷるるんっ」
「お、お前……動物じゃないな、もしかして魔物か!?」
「ぷるんっ?」
青色の物体は全身が薄く透けており、獣の耳のような触手を生やしていた。つぶらな瞳に口も存在し、コウの言葉を理解しているのか彼の事を見つめてきた。
(何だこいつ、魔物にしては可愛いな……そういえば絵本でこんな奴を見かけた様な気がする。確か名前は……スライム?)
コウはゴブリンの時と同様に絵本に出てきた魔物の事を思い出し、彼の前に現れたのは「スライム」と呼ばれる生物だと判明した。魔物の殆どは人間に対して害を為す存在として認識されているが、このスライムは唯一に人類に害を与えない存在として認識されていた。
スライムは魔物の中では比較的に戦闘力は低く、自ら人間を襲う事はない。水場の近くに生息する種であり、見た目の愛らしさもあって魔物を題材にした絵本の中では人類の味方として表現される事が多い。
「お前、スライムか……その岩の上が気に入っているのか?」
「ぷるんっ」
「……本当に俺の言葉が分かるのか」
コウの言葉に対してスライムは肯定するように岩の上で弾み、それを確認したコウは苦笑いを浮かべながらスライムに譲った岩に背中を預ける。
「はあっ……まさか一日に二回も魔物を見る羽目になるなんてな。お前等、何処から現れたんだよ?」
「ぷるんっ?」
本来ならば危険区域にしか存在しないはずの魔物が二種類も現れた事にコウはため息を吐き出し、つくづく自分の不運に嫌気を覚える。しかし、先ほどまでは怪我のせいで意識も薄れかけていたが、スライムに驚かされたせいで少しは元気を取り戻せた。
(弱気になっても仕方ないか……まだ生きてるんだ。だったら諦めずに最後まで生き抗おう)
元気を取り戻したコウは諦める事を辞めて生き残るために行動を再開する事にした。そんな彼を見てスライムは何を思ったのか、身体を弾ませて彼に語り掛ける。
「ぷるぷるぷ〜るっ」
「な、何だよ……悪いけど餌なんて持ってないぞ」
「ぷるるんっ!!」
「うわっ!?」
餌でも求めているのかと思ったコウはスライムに語り掛けると、スライムは彼に目掛けて口元を開き、青色に光り輝く液体を放つ。唐突に液体を身体に吹きかけられたコウは驚き、その場に尻餅をついてしまう。
「ぶはっ……このっ!!いきなり何をするんだ!!」
「ぷるるんっ……」
「わっ!?お、お前……どうしたんだその格好!?」
謎の光り輝く液体を吐き出した瞬間にスライムの身体の輝きが無くなってしまい、身体も一回り程小さくなってしまった。コウはスライムの変化に戸惑うが、不意に彼の身体に異変が起きる。
先ほどまで動くと怪我をした左腕と背中に痛みが走ったが、何故かスライムに謎の光り輝く液体をかけられた後から怪我の痛みが消えた。驚いた彼は自分の左腕に視線を向けると、そこには信じられない光景が映し出された。
「き、傷が……消えてる!?」
「ぷるるんっ……」
ゴブリンに噛みつかれて深い傷跡が残っていたはずの左腕が元通りに戻っており、噛みつかれた跡さえ全く残っていなかった。しかも怪我が治ったのは左腕だけではなく、いつの間にか背中の鈍い痛みも消えていた。
驚いたコウはその場で濡れた上着を脱いで背中に手を回すが、まるで時間が巻き戻ったかの様に怪我の跡はなかった。最初は夢かと思ったが、コウは自分の衣服にこびりついた血を見て現実だと知る。
「いったいどうなってるんだ……まさか、お前が治してくれたのか?」
「ぷるんっ」
コウの言葉を聞いてスライムは肯定するように鳴き声を上げ、まさか
「……ありがとな」
「ぷるぷるっ♪」
助けてくれたお礼にコウはスライムの頭を撫でると嬉しそうな鳴き声を上げ、彼に擦り寄ってきた。コウと遭遇したスライムは人懐っこい性格らしく、彼がその場を離れようとすると後を付いてくる。
「ぷるぷるっ」
「うわっ、付いてくる気か……仕方ないな、俺の頭の上に乗ってろ」
「ぷるるんっ♪」
スライムが自分に付いてくるのを見てコウは仕方なく頭の上に乗せると、スライムは嬉しそうにコウの頭の上で跳ねる。思っていた以上にスライムは軽く、頭の上に乗せても全然首は痛くない。
人懐っこい性格のスライムと出会ったコウは頭の上に乗せてとりあえずは川を辿って山を下りようとした時、スライムが何かを伝えようと鳴き声を上げる。
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