第4話 変わり果てた幼馴染

(しまった!!取り乱し過ぎた……こんなに近付くまで気づかなかったなんて!!)



コウは祖父のアルから常日頃から狩猟の際は騒ぎすぎるなと注意されていた。それにも関わらずに自暴自棄になって大声を上げたせいで熊に見つかってしまった事に後悔する。


熊はしばらくの間はコウを見つめていたが、自分の脅威ではない察したのか彼に目掛けて腕を振りかざす。それを見たコウは咄嗟に後ろに飛んで距離を取ろうとした。



「ガアアッ!!」

「うわぁっ!?」



熊が振り払った右腕の爪がコウの手にしていた弓矢に衝突し、粉々に砕けてしまう。コウ自身は怪我はなかったが、熊に対抗できる武器を失ってしまう。



(爺ちゃんの弓が……いや、そんな事を考えている場合か!!)



祖父から借りた弓を壊されてコウは愕然としたが、すぐに正気に戻って逃げ出そうとした。もう彼の手持ちの中で武器になりそうな物は獲物の解体用の短剣ぐらいしかなく、熊が相手では役に立ちそうにない。



「ガアッ!!」

「うわぁっ!?」



熊はコウに噛みつこうとすると、咄嗟にコウは地面を転がって落ちていた石を拾い上げる。反射的に彼は拾い上げた石を熊の顔面に目掛けて投げつけた。



「このっ!!」

「ギャンッ!?」



予想外の反撃を受けた熊は怯み、コウは熊が自分から意識が逸れている隙に駆け出す。投石の技術でどうにか熊の意識を一瞬だけ反らす事に成功したコウは山の中を駆け下りる。



(早く何処かに隠れないと!!)



もしも熊が本気でコウを追いかけたら逃げ切れる事はできず、コウは必死に身を隠せる場所を探す。熊に追いつかれる前にコウは自分が隠れられそうな場所を探し、進行方向の先に偶然にも発見した大樹の後ろに隠れる。


大樹に身を隠したコウは声で気づかれないように口元を塞ぎ、自分の心臓の鼓動がこれまでにないほどに高鳴っている事に気付く。全神経を聴覚に集中させ、熊が近付いてくる足音を探ると、しばらくして熊の唸り声と足音が響く。



「ガアアッ……!!」



熊は先ほどのコウの投石で怒りを抱き、周囲を見渡しながら鼻を鳴らす。大樹の陰からこっそりと熊の様子を伺っていたコウは自分の額から流れる血に気付いて顔色を青くした。



(しまった!?血の臭いで気づかれた!?)



自暴自棄になって頭をぶつけた事でコウの額から血が流れ、彼は慌てて抑えようとするが既に時遅く、熊は大樹の裏に隠れていたコウの元に回り込む。



「アガァッ!?」

「う、うわぁあああっ!?」



コウは自分に近付いてくる熊を見て悲鳴を上げて座り込み、そんな彼に熊は噛みつこうとしてきた。熊の牙がコウの頭に食い込もうとした瞬間、強烈な突風が発生して熊とコウの身体が吹き飛ぶ。



「ぐあっ!?」

「ギャウッ!?」



突風のお陰でコウは熊から離れる事ができたが、彼は地面に叩きつけられてしまう。一方で熊の方は何が起きたのか理解できず、コウと同じように地面に転倒するが、この時に熊の前に人影が映し出された。



「やぁああああっ!!」

「アガァッ――!?」

「えっ!?」



何者かが熊の前に現れると、その手に持っていた槍を熊の眉間に突き刺す。頭を貫かれた熊は一瞬にして絶命し、槍の刃が引き抜かれると頭から血を流しながら地面に倒れ込む。


自分が逃げ惑う事しかできなかった熊を何者かが一撃で殺した事にコウは唖然とするが、とにかく助けてくれた事に感謝を伝えようとした。



「あ、ありがとうございま……」

「……コウ?もしかして、コウなの?」

「えっ?」



コウがお礼を言い切る前に助けた相手は彼に近付いて話しかけると、ここでコウは自分が助けた人物の正体を知る。それは一年ぶりに見た幼馴染の「ルナ」だった。



「ルナ!?お前、まさかルナなのか!?」

「コウ!!やっぱりコウだ!!ずっと会いたかったよ!!」

「うわっ!?」



一年ぶりに再会したルナは髪の毛が伸びており、身長も伸びていたので一瞬誰だか分からなかった。しかし、すぐに彼女の顔と声を見てコウはルナだと気付く。ルナの方も成長したコウを見て嬉しそうに飛びつき、二人はその場で抱きしめ合う。


ようやく出会えた幼馴染にコウは嬉しく思うが、彼女が先ほど熊を殺した事を思い出して戸惑う。よくよく観察すると現在のルナは白銀に輝く鎧と槍を装備しており、鎧の胸元の部分にはこの国の象徴である「剣の紋様」が刻まれていた。



「ルナ、お前その格好は……」

「あ、えっと……これは代々の勇者に受け継がれる由緒正しい鎧なんだって。初めて魔物を倒した時に陛下から貰ったんだよ」

「魔物?陛下?いったいどういう……」

「そんな事より!!コウの方こそどうしてここにいるの?」



コウが尋ねる前にルナは話を切り替え、何故彼が山の中にいるのかを問う。無理やり話を変えた彼女に違和感を抱きながらもコウは自分が山の中に居た理由を話す。

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