第3話 祖父の教え
「――馬鹿野郎!!お前みたいなガキが一人で旅なんてできる訳がねえだろ!!」
「うぐぅっ!?」
ルナが村を去ってから数日後、コウは祖父の「アル」にルナを追いかけるために自分は村を離れたい事を伝えた。しかし、アルは話を聞くと彼を殴りつける。
「な、何で駄目なんだよ爺ちゃん……」
「ふんっ、お前みたいな世間知らずのガキが一人で旅に出たってどうせ野垂れ死ぬだけだ!!いいか、何があろうと俺はお前を旅になんて行かせないぞ!!」
「どうしてだよ!!俺はルナを連れ戻したいんだ!!」
「……お前、そこまでルナちゃんの事を」
コウは自分が旅に出る事を許して貰うためにアルに頼み込むが、彼は腕を組んで部屋の中を見渡す。そして彼は壁に立てかけた弓矢を見てある事を思いつく。
「そんなに旅に出たいのか?言っておくがお前が思っているほど旅は甘くないぞ、しかも一人旅なんて常に気を張ってないといけないんだ。お前にそれができるのか?」
「で、できるよ!!」
「だったら言葉じゃなくて行動で証明してみせろ!!お前がもしも一人で狩猟を成功させたら旅に出るための装備や金ぐらい用意してやる!!」
「うわっ!?」
壁に立てかけていた自分の弓をアルはコウに放り込むと、コウは驚いた表情を浮かべた。そんな彼にアルは一人で狩猟に出向いて獲物を狩って来る様に伝えた。
「いいか、コウ!!お前ひとりの力で熊か猪を倒してみせろ!!片方だけでも倒したらすぐに旅に出させてやる!!」
「そ、そんな無茶な!?今までだって兎ぐらいしか狩った事がないのに……」
「何だ、諦めるのか?お前がルナちゃんに会いたいという気持ちは嘘なのか!?」
「……くそっ!!約束だからな爺ちゃん!!僕が熊か猪を狩ったら旅に出るぞ!!」
「ふん!!やれるものならやってみろ!!」
コウはルナを追いかけるためには一人旅に出なければならず、そのために必要な金と装備を用意できるのはアルだけだった。なんとしてもコウはアルから旅に出る事を認めてもらうために彼は狩猟に出向く――
――しかし、アルと約束した日から一年が経過してもコウは約束を果たす事ができなかった。祖父と比べるとコウの猟師としての腕は未熟でそもそも彼は弓矢を扱う事を不得手としていた。
「チュチュンッ!?」
「くそっ!!また外した……何で当たらないんだよ!!」
山の中でコウは弓矢を構え、枝に乗っていた野鳥を狙い撃とうとしたが掠る事もできなかった。鳥は矢が通り過ぎたのを見て逃げ出してしまい、それを見たコウはため息を吐き出す。
もう既に約束してから一年が経過しても未だにコウは熊も猪も狩れなかった。それどころかこの一年の間で彼が狩る事ができたのはせいぜいが兎と野鳥ぐらいであり、しかも兎と野鳥を狩った際に使用したのは弓矢ではなかった。
「……こういう石なら絶対に当てられるんだけど、な!!」
「ギャンッ!?」
コウは十数メートルは離れた場所を通り過ぎようとした鹿を発見し、足元に落ちていた石を拾い上げて投げつける。彼が投げつけた石は鹿の頭部に的中し、最初の内は足元をふらつかせていたが、すぐに頭を振って逃げ出してしまう。
「はあっ……逃げられたか」
石を当てる事には成功したが威力不足で鹿を仕留める事はできず、彼は悔しそうに近くの木に拳を叩きつける。昔からコウは遠くにいる相手に物を投げて当てる事は得意としていたが、この方法で倒せるのはせいぜい小動物程度であり、鹿などの大きな動物はせいぜい怯ませる程度の効果しかない。
鹿を怯ませる程度の威力では熊や猪などの相手には「投石」は通用せず、やはり弓矢を完全に扱いこなせるようにならなければ狩猟はできない。しかし、肝心のコウは弓の才能は皆無に等しく、どれだけ練習しようと的に当てる事もままならない。
「くそっ、もう一年だぞ!!それなのに俺は……!!」
この一年の間にコウなりに身体を鍛え、狩猟を成功させるために色々と頑張ってきた。毎日薪割りを行って腕力を磨いたり、毎日狩猟のために森や山の中を駆け巡った事で前よりも脚力や体力は身に付いた。しかし、それでも肝心の狩猟の腕は全くと言っていいほど進歩がなかった。
「いったいどうしたらいいんだよ……くそっ!!」
拳だけではなく、コウは頭を木に叩きつけた。あまりに強く叩きすぎたせいで額に血が滲み、足元がふらつく。いくら怒った所で状況は変わらず、コウは仕方なく今日の所は立ち去ろうとした。
(もうすぐ夕方だ……日が暮れる前に村に戻らないと)
頭を抑えながらコウは手放した弓矢を拾い上げようとした時、彼は視界の端に黒い物を捉えた。不思議に思ったコウは顔を見上げると、いつの間にかコウの正面に熊が立っていた。
「グゥウッ……!!」
「えっ……!?」
怒りのあまりに周りの光景が見えていなかったらしく、山の中で騒いでいたコウの元に熊が訪れていた。熊は自分の縄張りに入ってきた人間の子供を見て怒りの表情を抱き、一方でコウはまさか熊の方から現れるとは思わずに焦る。
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