第2話 幼馴染との別れ
「見つけた……この子こそが勇者様の生まれ変わりです」
『おおっ!!』
「えっ……ぼ、僕が勇者!?」
「ルナが……勇者だって?」
占術師の言葉にルナは呆気にとられ、尻餅をついていたコウも唖然とした顔で彼女を見上げる。その一方で村人の兵士はどよめき、将軍の男は勇者の生まれ変わりを遂に発見した事に喜ぶ。
「素晴らしい!!あの勇者の生まれ変わりが見つかった!!ではすぐに王都に戻りましょう!!」
「ええ、それでは王都に参りましょう……勇者様」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!!」
「ルナ!?おい、待てよ!!」
当たり前の様に占術師はルナの腕を掴んで連れ出そうとしたが、いきなり勇者だなんだと言われて納得できるはずがなく、ルナを無理やり連れて行こうとする占術師をコウは泊めようとした。
しかし、コウが占術師を止める前に将軍の男と兵士達が即座に動き出し、彼等はコウを抑えつけた。コウは大勢の兵士に強制的に抑えられ、将軍の男に怒鳴りつけられる。
「占術師様に近付くな!!この不届き者め!!」
「うわっ!?は、離せよ!!」
「コウ!?ちょっと、乱暴は辞めてよ!!」
「……将軍、後は任せました。それでは勇者様、この馬車にお乗りください」
「待ってよ!!コウに酷い事しないで……ねえ、誰か止めさせてよ!!」
ルナは占術師に引っ張られて馬車に連れ込まれようとするが、彼女は他の村人にコウを助けるように頼む。しかし、村人達は困惑した表情で顔を見合わせる。
「お、おい……どうしたらいいんだ?」
「助けろと言われても、相手は兵士様だし……」
「コウの爺さんは何処にいるんだ?」
「確か昨日から狩猟に出向いて戻ってきていないぞ」
村人達はコウを助けようとすれば兵士を引き剥がさねばならず、そんな真似をすれば自分達がどんな目に遭うのか分からず恐れを抱く。そんな村の大人達の態度にルナは怒った。
「ねえ!?皆、何で助けてくれないの!?」
「落ち着いて下さい勇者様……将軍、あまり手荒な真似をしては駄目ですよ」
「はっ……おい、自由にさせろ」
『はっ!!』
「うわっ!?」
占術師はルナの取り乱し様を見てコウを解放するように促す。将軍はコウを抑えつけていた兵士を離れさせると、彼は怒りの表情を浮かべて将軍に突っかかる。
「いきなり何をするんだ!!」
「ふんっ、身分を弁えずに占術師様と勇者様に近付くからこうなるのだ」
「何が身分だ!!僕はただルナを……」
「勇者様を呼び捨てにするな!!」
「うわっ!?」
「コウ!?ちょっと、止めてよ!!」
将軍はルナの名前を口にしたコウを突き飛ばし、それを見たルナは占術師の腕を振り切って彼の元に駆けつけようとした。しかし、それを阻んだのは兵士と将軍だった。
「勇者様、どうか落ち着いて下さい。もう貴方はただの村人ではありません。この国を救う勇者なのです」
「そ、そんな事を言われても……」
「勇者様、彼には私が注意しておくので馬車にお乗りください。国王様が貴方様が来られるのをお待ちしております」
「国王様ってっ……王様の事?」
国王が自分が来るのを待っているという言葉にルナは信じられない表情を浮かべるが、彼女は突き飛ばされたコウに視線を向けた。コウは彼女が行く事を止めようとしたが、彼の周りには兵士が取り囲む。
もしもこれ以上に自分が留まればコウは何としても助けようとする思い、大切な幼馴染がこれ以上に兵士に傷つけられるのは見たくないと思ったルナは、覚悟を決めた表情で占術師に振り返る。
「わ、分かりました。それなら僕は行きます、だからこれ以上にコウに酷い事しないでください」
「ルナ!?何を言ってるんだ!!」
「ええい、こいつめまた呼び捨てにしおって……」
「将軍!!勇者様の御言葉が聞こえなかったのですか!?」
ルナをまた呼び捨てにしたコウに将軍は手を上げようとしたが、占術師が鋭い目つきで将軍を怒鳴りつけると、彼は渋々と腕を下げた。
「ふん、まあいいでしょう……しかし、これ以上に邪魔をするのであればいくら勇者様の友人であろうと許しません」
「止めて!!もう分かったから……僕が王都に行くからコウに酷い事をしないで!!」
「行くな、ルナ!!こいつらおかしい!!」
「ば、馬鹿!!コウ、将軍になんて口を……」
「誰かこいつを抑えろ!!」
コウはルナを連れて行こうとする将軍と占術師を止めようとするが、今度は兵士ではなく村人達が彼を抑えつけた。コウは村の大人に口元を塞がれ、動けないように取り押さえられた。
「むぅうっ!?」
「コウ……ごめんね」
「では行きましょう、勇者様」
「出発だ!!」
占術師と共にルナは馬車に乗り込み、この時の彼女は最後にコウに振り返って別れの言葉を告げた。彼女は涙を流していたが、占術師に背中を押されて馬車に乗り込む。他の兵士と将軍も馬に乗り込み、馬車と共に村を立ち去ろうとした。
村人達に取り押さえられたコウは必死にもがいて馬車に手を伸ばすが、その手が馬車に届く事は有り得ず、こうしてルナは「勇者」と見定められて故郷を去った――
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