凡人の俺と幼馴染の勇者 ~全回復の泉の有効活用法~

カタナヅキ

勇者と凡人

第1話 幼馴染との思い出

「ううっ……コウ、何処まで行くの?暗くて怖いよ……」

「たくっ、自分から付いてくるって言った癖に今更怖がるなよ」

「だって、こんな暗い森の中を進むなんて聞いて無いもん」



暗い森の中、少年と少女が手を繋いで歩いていた。暗闇に染まる森の中を進む事に少女は恐怖を覚えるが、そんな少女を元気づけるように彼女から「コウ」と呼ばれた少年は手をしっかりと握り締める。



「いいからついて来いって、あと少しだから……ほら、見えてきたぞ」

「えっ……なにあれ?」



少女はコウの言葉を聞いて前を剥くと、木々の隙間から白い光が見えてきた。コウは怖がると少女を引っ張っていくと、二人は花畑に辿り着く。



「ほら、見ろよ……これが月華だ」

「わあっ……凄い!!綺麗だよ!!」



二人が到着した花畑には三日月のような形をした花が生えており、夜空の月の光に照らされて輝いていた。その神秘的な光景を見て先ほどまで怖がっていた少女は恐怖など吹き飛ぶ。


コウと少女は花畑の中心に移動すると二人は地面の上に横たわり、一緒に星空を見上げた。少女は周囲に生えている「月華」と呼ばれる花々の輝きに目を奪われ、そんな彼女にコウは微笑む。



「綺麗だろ、ここは俺の母さんが子供の頃に見つけたんだ」

「母さんって……コウが小さい頃に亡くなったお母さん?」

「ああ、そうだよ」



少女の言葉にコウは頷き、彼の両親は小さい頃に事故で亡くなっていた。コウが病で倒れた時に両親は彼を治すために村を出て病に効く薬草を探しに向かった。しかし、二人とも薬草を見つけた後に村に戻ろうとした時、土砂崩れに巻き込まれて死んでしまう。


奇跡的にコウの命は助かったが、彼の両親は亡くなってしまった。コウは生まれる前に祖母は亡くなり、その代わりに猟師の祖父が彼を育ててくれた。



「コウはお母さんがいなくて寂しくないの?」

「別に……爺ちゃんもいるし、それにルナもいるしな」

「そ、そっか……そうだよね」



コウの何気ない言葉にルナと呼ばれた少女は頬を赤く染め、二人は美しい夜空を見つめた。その日は結局は夜が明けるまで二人は語り続け、戻ってきたのが朝だったためにコウは祖父に拳骨を喰らい、ルナの両親からも叱られた――






――しかし、それから2年の時が経過してルナとコウが12才になった時に2人の暮らす村に国の兵士が訪れた。兵士を引き連れて現れたのは身長が2メートル近くもある大男と、漆黒のローブを纏った金髪の女性だった。



「我々はこの国を統べるヒトノ国の王、バルトロス13世様から命を受けてこの村へ来た!!ここにおられるお方は占術師シル様だ!!」

「…………」



将軍の男は国王の命令で占術師と呼ばれる女性を村に連れてきたらしく、唐突に現れた彼等に村人達は戸惑う。そんな彼等に最初に対応したのはルナの祖父であり、彼はこの村の村長でもあった。



「こ、これは将軍様……我々の村にどのようなご用件でしょうか?」

「ここにおられるシル様がこの村に勇者の素質を持つ人間が生まれる事を占術で見抜かれたのだ!!」

「ま、まさか!?あの伝説の勇者がこの村に!?」



勇者とはかつて人類がと呼ばれる存在に滅ぼされようとした時に現れた英雄であり、人間の常識を超えた力を身に付けた勇者によって魔族は滅びた。世界を救った勇者は英雄として世界中の人間に崇拝された。


その後、勇者の亡き後も世界規模で大問題が発生した時に勇者と同等の力を持つ者が誕生するようになった。彼等は勇者の生まれ変わりと信じられ、そして今から100年ほど前に勇者が死んだ後に未だに勇者の力を持つ者は生まれていない。



「勇者の力を持つ者が生まれた時、それは世界が災いの時を迎えようとしている事を現わしている。そして占術師様の占いによればこの村に勇者の素質を持つ人間が生まれたと判明した!!」

「そ、そんなまさか……」

「占術師様の占いは絶対に外れぬ!!この村には既に勇者の生まれ変わりがいるはずだ!!占術師様、お願いします!!」

「……12才の子供をここに集めよ」



占術師と呼ばれた女性は村に暮らす12才の子供達を集め、その中にはコウとルナも含まれていた。二人の他には丁度12才の子供はおらず、急に呼び出された2人は村人と兵士の前に立たされ、不安そうな表情を浮かべる。



「占術師様、この村に暮らしている12才の子供はこの二人だけのようです」

「……手を前に」

「あ、あの……」

「これはいったいどういう……」

「余計な口を挟むな!!さあ、手を差し出せ!!」



コウとルナは急に呼び出されて戸惑うが、占術師は二人に自分に腕を見せるように告げる。戸惑いながらもコウとルナは占術師に腕を伸ばすと、彼女は目を見開いて、二人の手を握りしめた。



「……見つけた」

「え?」

「あの……うわっ!?」



占術師はルナの手をつないだままコウの手を乱雑に振り払い、彼女は笑顔を浮かべながらルナの手を掴んだまま抱き寄せる。その行為に他の者は驚き、手を振り払われたコウは唖然とした。

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