第53話 モブと潜入
>> ロー
がたんごとん
王都へと向かう、商隊。
そこに、護衛として紛れ込んだ。
エステル達には、黙ってきた。
書き置きを残してある。
ダンジョンマスターに頼んで国境まで送ってもらい、そこから徒歩で王都に向かうと。
まあ、行く手段は嘘なんだが。
途中に魔物の襲撃も、盗賊の襲撃もなく。
無事王都へと着く。
結構な額の報酬を貰い──何もしていないのに大金を貰って、これって美味しい仕事なのでは?──解散。
花街へと足を向ける。
さて、マリンちゃんと接触するには、どうするか。
元々、死んだ事になっている人物。
花街にいるとは考え難い。
そうなると、盗賊ギルドか?
ゴルファの作った変装グッズは、ゴルファが力を失うと同時に機能しなくなったからな。
盗賊ギルドの協力者である、アレを装う事もできない。
となると。
「珍しい素材を売りたい。ギルドマスターに会わせて欲しい」
受付の男が、呆れたような顔を見せる。
盗賊ギルドに直接素材を持ち込むのも稀だが……自分から珍しい物と言うのは、相当な自信がないとできない。
ましてや、ギルドマスターに直接見せる程の品となると、極めて疑わしい。
「こちらで受け取りますよ」
受付の男が答える。
ちなみに、こいつ、前のギルドマスターだよな。
人材不足なのか?
「直接渡したいんだ。名を売り込みたいからな。品は──フェンリルの毛皮」
「……なるほど。伝説の主の毛皮であれば、確かに希少……少し前までなら、ね。少し前、フェンリルの素材が市場に出回りました。当然、当方でも確保しています。希少な品なので買い取りは構わないですが、ギルドマスターに名を売るには弱いですね」
「分かった、では預かってくれ。状態が良いものだから、きっと、ギルドマスターの美しさを引き立てる物が作れる筈だ」
ギルドマスターが女性だと知っている、そう匂わせる。
いや、美しさに自信がある男性もいるけどね。
「承知しました」
実はそこまで品質が良い訳でもないフェンリルの毛皮を渡す。
状態が良い物は先に売ってお金に変えてしまったんだよな。
このやり取りをマリンちゃんが見るか、情報が伝われば、俺の所に連絡が来る筈。
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>> ロー
王都は、変わってしまった。
活気は消え失せ、殆どの住民は逃げてしまっている。
体の不調等で逃げることができない者、王都に強い愛着がある者……まだ残っている者もいる。
数日、空き家を寝床としてすごす。
不気味。
その一言に尽きる。
夜は、外を、アンデッドや異形の魔物が徘徊する。
時節、明らかにやばい奴……高位魔族?が歩いている。
昼も、外を出歩く者は滅多にいない。
僅かな配給で命を繋いでいるようだ。
そして、日々、王宮へと人が連行されていく。
盗賊ギルドには、数回足を運んだ。
反応がない。
ハズレか?
いや……あたりか。
居間の机の上。
見覚えのない封筒がある。
これでも、盗賊スキルには自信があるのだが。
一切気づかせず、置いていくとは。
中を見る。
可愛らしい字で、待ち合わせ場所、時刻、そしてマリンちゃんの署名。
署名見た事は無いが、多分本物。
俺は、そっと封筒を懐に入れ、情報収集の続きへと身を投じた。
--
>> ロー
気配を消して、空き家へと忍び込む。
そこには。
フードを目深に被った集団。
俺も、化粧を落とし、素顔を見せる。
「……ローさん!」
フードの女──マリンちゃんが、抱きついてくる。
「良く頑張ったな」
頭を撫で、慰め、
「すみません……ローさんが訪ねて下さっていたのに、なかなか気付けず」
……あれ。
変装に力を入れすぎて、気付かれてなかった?
「……もう少し、分かりやすくすべきだったな。だが、気付いてくれたし、こうして連絡もくれたし」
いつ侵入されたのか気付かなかったけれど。
俺の言葉に、空気が変わる。
「……連絡、ですか?お会いできる段取りをつけて下さったのは、ローさんですよね?」
そう言って。
胸の谷間から、封筒を取り出す。
んん?
俺は、無言で、可愛らしい封筒を取り出す。
……見回す。
皆に浮かぶ、戸惑いの色。
これは……
俺が浮かべた警戒に反応したのか。
「そうだ。その招待状は、私が出した」
声の主は……サンドラ。
何時の間に……いや、確実にいなかった。
空間転移か、それとも壁を抜けて来たか……
なるほど。
俺に気付かれずに封筒が置かれたのは、こういうカラクリか。
「サンドラ!?」
マリンちゃんが驚き、俺にしがみつく。
マリンちゃんの仲間も、警戒態勢を取る。
「おや、何かやましい事が有る様だなぁ、叛逆者どもよ」
ぱちり
サンドラが指をならすと、兵士の集団が、出入り口を塞ぐように現れる。
抵抗は……無駄か。
「連れて行け」
兵士達が、マリンちゃん達を拘束していく。
「お前はこっちだ」
拘束はされないが。
俺が逃げれば、マリンちゃん達が危ない。
ここは、従おう。
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