第50話 モブと黒幕

「ご主人様が王になるとかいう冗談はともかくとして……いえ、むしろご主人様程、王の器に相応しい方はおらず、全力で推したいですが、それはそれとして……」


相応しくねえよ。

政治とか欠片も分からねえよ。


「それはそれとして、ビルギット姫、結構本気だったのですね。すみません……反王家は、持ちネタかと思っていました……」


「あらあら、エステルさん。私はいつも本気ですよぅ?」


王女様は、いつもの雰囲気に戻ると、ほんわかと嗜める。

普段の不思議ちゃんは、政争を切り抜ける為の演技ということか。


「ああ。そいつは腹黒いぞ。色々やってくれていた……諸悪の根源と言って良い」


!!?


不意に現れた気配。

一斉にそちらを向く。


声の方向にいたのは……うわ、凄い美女。

エステルに勝るとも劣らない。

ゴルファが言うところの、SSR美女。


大きく形の良い胸、バランスの良い身体つき。

抱き締めたら、どれほど至福か。

だが、それすら霞んで見えるのは、瞳の美しさ。

魅了でもかけられたか?

意識が瞳に吸い込まれる。


「サ……サンドラ様?」


サーラちゃんの言葉に、


「酷いな、サーラ。親友が訪ねて来たのに、まるで敵を警戒するような態度ではないか。真に警戒すべきは、そこにいる王女だと言うのに」


「……私はぁ、王家派でも、悪辣貴族派でもないですよぅ?」


「ああ。違うな。貴方は……国賊だ」


サンドラは、王女様を指差し、


「みんなは知らないのだ。王女はな……妖精魔法に稀有の才能を有しながら……それを隠している。妖精を忍ばせ、皆の監視をしていたのだ」


「そんな!時々、ですよ!普段は、お父様とか、叔父様達に!」


監視は事実か。

思い返してみれば、普段から、妙にタイミング良かったりしたな。


「そうして得た情報、古代知識、そして妖精魔法……そういったものを使い、暗躍し続けたのだ」


「してません!!」


今度は、きっぱり否定する。


「ラスムスに情報を流し、サーラを陥れ」



王女様が視線を逸らす。

おい。


「魔物を活性化して、エドラの父親を殺し。村や孤児院を焼き。税を跳ね上げて人民を苦しめ──」


「やってませんけど!?」


王女様が声を荒らげ、涙目で抗議する。

でも、ラスムスに情報流したのは事実だよな。


「はは……ラスムスさんに情報を流していたのは、本人から聞いてますよ。その前の損失とは無関係で、単純に手を差し伸べる橋渡しをして下さっただけです。むしろ感謝しております」


サーラちゃんが、王女様の前に立ち。

手を取り、苦笑する。


「そ、そうですよ!確かに望まぬ婚姻ですが…少し我慢すればすぐにぽっくり逝って、莫大な財産を継承できるので、凄くお得だったんです!」


「黙りなさい、この腹黒王女」


サーラちゃんが、見たこと無いような怖い顔になり、王女様と距離を取る。

すげえ、一瞬で味方の手の平を返させた。


「と、ともかく!後半は本当に知らないですからね!」


「私は……容易くはないぞ。証拠は、揃いつつある。王城へお戻り頂けるなら、私が確保するが……エステルが監視してくれるのなら、それでも構わぬ」


サンドラは、みんなを見回し、


「忠告しておくが。こいつからは目を離さない方が良い。ファムディアに連れていくのも、止めておけ。街が、死都になっても知らんぞ」


そして、俺を見て、


「お前が、エステルの想い人か。エステルを泣かせるなよ」


ぞくり


明確な殺気。

汗が流れる。


「では、王女よ。首を洗って待っておけ」


サンドラはそう告げると、ドアを開けて出ていった。


--


>> ロー


ファムディア。

ゴルファ、エドラちゃんも呼び、会議室に集う。


王女様は、ファムディアに避難してきた。

王都の拠点は引き払った。

王女様、サーラちゃんの魔力供給を受けつつ、エステルちゃんのゲートの魔法で移動。

荷物の大半や、エステルちゃんの家族、ラスムスさん達は、馬車の群れで後追い移動。


「……サンドラ様が……しかし、ビルギット姫を陥れようとしたのは事実……」


エドラちゃんが、呆然と呟く。

エステルちゃんの能力により、サンドラが嘘をついているのは分かっている。

正確には、虚偽ではなく、悪意を感知するだけなので、確実ではないらしいが。


「もう、凄く怖かったんですよぅ、王都は!兵士は謎の黒いモヤが取り憑いているし、急に手が増えたり、顔が人外になってケラケラ笑う貴族はいるし!まるで悪夢のようでした!」


……それって。


ちらり。

エステルちゃん、ゴルファを見る。

2人とも、頷く。


「つまり、今の王族の暴走は、魔族のせいと言う事か」


俺の言葉に、王女様は呆れた様子で、


「ローさん。それは違いますぅ。魔族が動くのは、魔王が復活する時だけ……そして、あと50年は復活しない筈です。そもそも、魔王が復活するのであれば、その十数年前に必ず勇者が産まれています。勇者の誕生をもって、全世界は魔王討伐協定を発動、魔族の警戒や、軍備増強をするのです!」


あー。

ちらりとみんなを見回すと。

バツが悪そうな顔。



仕方ない。

俺は、王女様を見ると、


「その……なんだ。こいつが元勇者」


ゴルファをさす。


王女様は、きょとんとすると、涙目で、



「な、ななな、何を言ってるのですかああああああああああああああ!?」



叫ぶ。


「何故言わなかったのですか!自覚したのはいつですか!ローさんが知ったのは……いえ……エステルさんやエドラさん、サーラさんも知っていたのですか!!?というか、元って何ですかあああああああああ!???」


「いや……そりゃ、黙っていたのは悪かったけどさ。王女様も、明らかに人外の所業を見ていたなら、気付こうぜ?」


勇者の出現、という印に頼り過ぎていた。

それが敗因だと思う。

次からは気をつけるんだな。

異常な魔物の増加、天変地異の増加もそうだが。

気付くことは出来たはず。


いや、スローライフとか言ってたゴルファも悪いんだけどさ。

黙ってた俺も悪いんだけどさ。


「……それで、今からでも勇者様を公表し、対魔族包囲網を──」


「いやあ。あくまで元勇者であって、もうゴルファは戦えないんだわ」


「!!??」


今のゴルファより、サーラちゃんの方が強かったりする。

流石に、俺よりは強いけど。


王女様は、ひとしきり頭を抱えると、


「……エドラさんが防衛能力高めたり、軍備増強しているのは、対魔族戦を見越してということだったのですね。適当に他の人を王にして、スローライフおくる計画がああああああ」


スローライフ人気すぎだろ。

英雄とか、王侯貴族とかの生活の方が絶対良いですよ?


「……人類の存続が、第一優先です。私も、協力させて下さい。魔族対策と、ローさんの擁立に」


「まっ」

「王女様!心強いです!」


俺のツッコミを、エステルちゃんが遮る。

おい。


「王女様はやめて下さい。私は今から、ただのビルギット。みなさんの同志です」


突然言われても、あっさり呼び捨てになどできる筈もなく。

仕方がない。


「せめて妥協して……ビルギットちゃんで良いか?」


「「「「「!!?」」」」」


何故か、全員驚いた様な顔をして。

その後、小声で話始める。

内容は、俺の常識を疑う様な内容。

いや、呼び捨てより丁寧で良いよね?


「み、みなさんも、ビルギットちゃんでお願いします」


「……ビルギットさんで」


エステルちゃんが苦笑いしながら言った。

さんもちゃんも変わらないよ。

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