第二部

第49話 モブと反王家

>> ロー


「ローさん、お久しぶりです!」


アミルちゃんが、嬉しそうに言う。

まあ、最近はファムディアに入り浸ってたからな。


「アミルちゃんも元気そうで良かったよ」


肌の艶が良くなっている。

景気が良いのだろう。

流石王都。


「……仕事が減って、睡眠をしっかり取れるようになりましたからね」


あっ。


「ローさんは、ローさんは、戻って来られたのですか!」


「……いや、近々、拠点をファムディアに移そうかと。所属も変更予定……」


「……ですよね……私も、両親と同居しないのであれば、そうしてました……」


純粋にゴルファが心配というのもあるが。

魔物は多いし、物流は盛んだし、食べ物は美味いし。

それに──


「これが査定額となります」


「……少ないな」


「すみません。また税金が上がりまして……」


ファムディアでは取引額の1割を徴収する。

が、王都では、5割。

場合によっては更に特別税がかかる。

以前は3割、変な追加税も無かったんだが。


王都からファムディアに移住する原因の1つになっている。


「それと、大変申し訳無いのですが、所属冒険者さんの税が変更されまして……」


「拒否する。来年からと聞いているが、それまでには籍を移すつもりだ」


王都所属の冒険者は、王都以外で売り買いした場合も、王都に納税の義務が発生する。

そんな制度変更が検討されているとか。

ふざけるな。


「いえ。適用が前倒しになりまして。しかも、今年の初めに遡って適用される──」


「拒否する」


正気か……?


「……ですよね。まだ誰も払って下さってません……というか、それ以来ぱったりと来られなくなります……」


「……まあ、逃げるよな。普通」


やれやれ。

今日で王都は最後かな……


「でも、滞納した場合は、そこそこの利息がつきますので、それだけはご了承下さい」


……そもそも、どうやって他で精算した金額なんて把握するんだ?

自己申告くらいしか無理だと思うが。


改めて、店内を見回す。

人はまばら……見知った顔はいない。

近い将来、ファムディアでその顔を見ることになりそうだな。


--


>> ロー


「と言う訳で、予定を前倒しして、ファムディアに拠点を移そうと思う」


「……冒険者ギルドに向かうと聞いて、驚いたのですが。法改正を知らなかったのですね……」


「……知っているなら教えてくれよ」


「ご主人様、むしろ情報を集める役割ですよね。エドラさんと言い、ご主人様と言い、もう少しご自分の職業を自覚されてはどうでしょうか」


「エドラと一緒にするな」


それは流石に失礼すぎる。

エステルを睨む。


「エドラ様は、もう暗殺者から足を洗っておられますよ。今では、優秀なルーンナイトです」


サーラちゃんの指摘。


「……ルーンナイトとしての実力は認めます。ゴルファさんの指導も続いてますしね」


力の大半を失ったゴルファだが。

元々の知識──異世界のカガク知識とか武術の知識は残っていて、それでエドラちゃんや、兵士の指導をしているようだ。

他にも、機工に魔法を組み合わせた兵器を作ったりしている。

あいつなりに、責任を感じているらしい。

対魔族用の準備、という訳だ。

……他国からは、戦争準備ととられているらしいが。


「それにしても、酷いですね、王家は。ファムディア領に対して、増税の勧告を行って来ましたよ」


「……マジか」


ファムディアでの税も上がるのかなあ……


「勿論断りましたけどね」


「……それは大丈夫なのか?」


サーラの言葉に、訝し気に問う。


「大丈夫も何も……元々、王家に、地方領主に対する増税の権限なんて存在しません。断るのは当然なのですよ」


「なるほどな……」


じゃあ何故そんな無茶な要求を行ったんだ?


「ファムディア領以外は、全て王家の要求をのみましたけどね」


エステルがぽつりと言う。

うわ……


「それは……大丈夫なのか……」


「最悪、内戦になりますね……」


ファムディアは、それなりの規模があり、人口も増え続けているが。

流石に、王国全体を相手にできる訳がない。

ゴルファ肝入の精鋭部隊なら、戦況を変える力になるとは思うが。


「王国軍には、サンドラさんがいますからねぇ。名高いファムディア軍でも、厳しいでしょうねぇ……」


「というか。王国批判っぽくなっている現場に、王女様がいて良いのか?」


友人として普通に尋ねてきたビルギット姫。

王国軍にいるサンドラちゃんとやらと同じ立場では。


「意味が分からないですねぇ。何故、反王家を信条とする私が、ここにいてはいけないのでしょうかぁ」


「……いや、王女様が反王家だと駄目だろ」


相変わらず、不思議ちゃんだな。


「駄目なんですかぁ?」


「逆に、何で良いと思うんだ?」


王女様は、ふと真面目な顔になり。


「今の酷い話を聞いて、王家の肩を持つ方が難しくないでしょうか。民衆への酷い課税、理不尽な暴力行為、婦女……いえ、見目良い男の子も、その身を汚され……最近では逆らった村を焼いた事もありましたね。さて、改めて、同じ問をしますね」


……あ、はい。

後半は全然知りませんでした。

そうですね。

反王家にならない方が難しいですね。


王女様は、苛立ちを含んだ目で俺を見据えると、問う。


「お父様のお仕事譲ってもらいましょうか?」


「良いと思います」


力なく答える。

いくら王女という立場があるとは言え。

今の王家を支持するのは難しい。

王女が反王家と言うのを、否定する事など──


「「……え?」」


エステルちゃんと、サーラちゃんの呻き声。

ん?


「待て、何と言った」


どさくさに紛れて質問変えやがった!?


「さて、契約はなりました。つきましては、私は全力でサポートを──」


「いやいやいや、おかしいから!さっき、質問を繰り返すって言ってただろ!新しい質問に変えるのは卑怯だろ!」


「え、繰り返しましたよ。以前同じ問いをして、その時は断られましたが。今回は受けて下さって良かったです」


「流石に王様になれとか言われてたら覚えてるわああああああああああ!」


適当言うな。

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