第47話 勇者と予兆
>> ゴルファ
どこで歯車が狂ったのだろうか。
順調に見えていた日々。
それは……歪み、崩れていく。
まだ、確証はない。
だが……
何がきっかけだったのか。
地球の食べ物が美味しすぎたのだろう。
エドラちゃんが、太り始めた。
明らかに体重が増えていて……
それと同時に、俊敏な運動を避けるようになった。
鍛錬も避けるようになった。
食事の量が、明らかに増えた。
そして……
夜の誘いも、断るようになった。
明らかに……俺から心が離れている。
そして。
「あの……勇者様……」
もふ
口に、スイーツをつっこむ。
別れの言葉は、聞きたくない。
最近、時々。
深刻な表情で、何かを語ろうとするのだ。
きっと……離別の願い。
それを聞いたとき、俺はどうするのだろう。
確かに、俺はエドラちゃんと契約した。
なので、エドラちゃんは、一生俺に使える義務がある。
だが……
エドラちゃんに拒絶された時。
俺は、それを拒めるのだろうか。
俺は、エドラちゃんが……好きだ。
俺は、たくさんのものを与えたが……たくさんのものを与えてもらった。
だから……この関係を続けたい。
だから……エドラちゃんの決意を聞くのを……先延ばしにしている。
「あのっ、勇者様!」
立ち去ろうとした俺を、エドラちゃんが掴み……バランスを崩し……
とっさに、支え、注意する。
「エドラちゃん、気をつけろ。お前の身体は、お前だけのものじゃない。自覚しろ」
奴隷の身体は、ご主人様である俺のものでもあるのだ。
いくら超絶回復魔法で直せるとは言え、痛いのは痛い。
気をつけるべきだ。
「……!!は、はい……!」
エドラちゃんは、目を白黒させると。
嬉しそうに、頷く。
そして、満面の笑顔で、俺の腕に抱きついた。
おお?
奴隷の自覚が復活したらしい。
女心は難しい……
結局、運動嫌いや肥満、夜のお誘いを避けるのは直らなかったが。
真剣な顔で何かを言おうとするのは、諦めてくれたようだ。
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>> ゴルファ
俺にだってプライドはある。
だが。
時には、人に頼りたくもなる。
ローとエステルちゃんの屋敷を尋ね。
相談を持ちかけた。
「ゴルファ、珍しいな。お前が相談事なんて」
「俺だって、不安になる事はある。そして、俺の知り合いなんて限られているんだ。たまには相手になれ」
「ああ、構わないよ。内容は想像がついているが……正直、俺も未経験だからな。話を聞くくらいしかできないよ」
……ローって彼女いたこと無いのか?
エステルちゃんとは彼女以前の関係なのだろうか。
いや、流石に進展遅すぎないか?
「あの……おめでとうございます、勇者様」
何故か祝われた。
このエステルちゃんの行動も、とにかく読めない……
「相談は……そうだな、分かっているらしいしな。エドラちゃんの事だ。どうも……俺から心変わりしている様なんだ」
「「え」」
相談内容分かっていたんじゃないのか?
ローとエステルちゃんが、揃って間抜けな声を出す。
「それと……エドラちゃんの健康状態だ。どうも、食欲が抑えられないのと、運動が嫌いになったようでな……お腹が出てきて……まるで妊婦さんの様にな」
「「えっと……」」
ローとエステルちゃんが、顔を見合わせる。
心底困惑した顔をしている。
まさか、エドラちゃんがぷくぷく太っているのに気付いてなかったのか?
しばらくアイコンタクトをした後、ローが俺を見て、
「……その、子供ができたんだよな?エドラちゃんからは、お前が認めてくれたと聞いているが」
「あり得ない事を言うな。俺の勇者印の、超強力避妊魔法を使っているんだ。子供ができる訳……まさか」
俺は、はたと気づく。
「……使ってたんですか?という事は……まさか……」
エステルちゃんも、気付いたらしく。
驚きの色を浮かべる。
「……そうだ。俺の他に……男ができた」
「……殴って良いか?」
ローが半眼で問う。
いや、俺を殴ったら、お前の手が潰れるだけだぞ?
「最低ですね」
エステルちゃんが後ずさる。
何故だ。
「仮に妊娠しているとしたら、という話だ。俺は、毎回必ず避妊魔法をかけているんだぞ?」
「……ああ、そういう事か」
ローが頷く。
ようやく気付いたのか。
「毒無効、か」
「!!?」
何……だと……
「……エドラさんにとっては、意に沿わない効果だったのでしょうね……避妊魔法。何でこんな男に……」
エステルちゃんがため息をつく。
なんか失礼な事を言われた気がするが、頭が混乱して、追いきれない。
そんな……まさか……いや。
色々説明がつく、だと……?
「ゴルファよ……絶対に、気付いていなかった事は悟られるなよ」
ローが、冷たい声でそう言った。
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