第44話 勇者と順風満帆

>> ゴルファ


「それで、お願いとは?」


エステルちゃんに割り当てて貰っていた部屋。

取り上げられかけたが、思いとどまってくれた。

いや、俺何も悪くないじゃん。

正当な対価もらっただけじゃん。

あと、エドラちゃん自身が感謝してるじゃん。


エドラちゃんは、俺を見上げ、


「勇者様。幾つか聞いて頂きたいお願いがある」


「構わないよ。幾つでも聞こう」


ヒロインのお願いは、聞いておいて損がない。

そう無茶な事は言わないだろうし。


「私を鍛えて欲しい」


「ああ、勿論だ」


ヒロインの魔改造は、お約束だからな。

主人公はチート無双するものだが、その従順なペットであるヒロイン達も、同じくチートを発揮するものだ。

前世では、あまり好きな展開という訳でもなかったが。

自分の身になってみれば、なるほど。


強者の孤独、それは深刻だ。

ヒロインと分かち合えるのならば、悪くない。

ローは、もっと無自覚チート無双してくれるはずなんだが、意外と伸びが悪いんだよな。

もっと俺が努力せねば。

今度魔物討伐行脚に連れて行くか……


「それと……フェンリルの遺体はどうなった?」


「放置してあるよ」


「我が領地に寄付して欲しい。深刻な資金不足が、一息つけると思う」


「……なるほど、構わないよ。何なら、他の遺体や、追加で素材をとっても良い。エドラちゃんの領地は、実質俺の領地だからな」


裏から、色々口を出させてもらおう。

領地魔改造も楽しそうだな。


エドラちゃんは、きょとんとすると、


嬉しそうに、


「はい、お願い」


そう告げた。

よほどお金が入るのが嬉しいらしい。


エドラちゃんは、俺の身体に腕を回し。

俺も、そっと抱きしめ返した。


--


>> ゴルファ


最近、1日が充実している。


朝。

5時に起き、エドラちゃんを起こす。

なお、この世界の1日は、25時間。

あまり地球と変わらない。

夜更しする習慣がない分、行動時間は短いけれど。

時計という習慣は無かったが、エドラちゃんの領地の技師に命じて作らせた。

なかなか悪くない。


「ふあ……ゴルファ様、おはよう」


「うむ、おはよう」


……鍛えた結果、それなりに戦闘能力は上がってきたが。

朝が弱いのは変わらず、か。

目覚まし時計もおいてあるんだけどな。


寮は引き払わせた。

代わりに、領地から学園まで、毎朝送り届けている。

エステルちゃんでも難しい距離らしいので、誤魔化すのが大変らしい。


領地の者には、限られた者にしか、俺の存在は明かしていない。

が、その者達は、俺に絶対服従する様に手配してくれている。

おかげで、色々暗躍させて貰っている。


「すぐに朝食を用意する」


「うむ」


当然、調理係は雇っているのだが。

料理を教えたら、自分で料理するのが楽しくなったらしい。

俺も、おっさんに作ってもらうより、可愛いヒロインに作ってもらった方が良いので、歓迎している。


……普通に絶品だと思うのだが、身内贔屓だろうか?


髪を伸ばさせ、少し着飾らせたら、普通に可愛くなった。

下手したら、SSR級の見た目かも知れない。


あと、戦闘技術の伸びも良い。

ローが1年くらいかけて身につけたものを、1回で覚えたりする。

正に原石。


「お味はいかが」


「美味い。和食もすっかりマスターしたな。良い嫁になるよ」


「……嬉しい」


エドラちゃんが、左手薬指にはまった指輪を撫でる。

防御魔法のかかった指輪だ。

綺麗な物だし、撫で心地も良いのだろうか。

最近の癖だ。


地球での婚約指輪の話をしたら、冗談で左手にはめた。

ノリが良い。


ちなみに、食卓には米が並んでいる。

俺が植物成長促進魔法で育てたものだ。

広く領地に配ったので、今後は自力で作ってくれる筈。

市場で流通すれば、俺も毎日食べることができる。


食後は、軽く鍛錬を行う。

地獄谷での走破訓練。

異常重力の中、擬態魔物を避けつつ、俺ですら溶ける強酸の川に落ちないように……いや、エドラちゃんは溶けないけど、服は溶ける。

日によっては組み手、魔物討伐、ダンジョンアタックと変えているが、朝は控え目だ。

学園があるからな。


学園が終わった後は、領主の仕事があって、なかなか忙しい。

魔物素材のお陰で財政難が一気に解消。

道路の整備、公共施設建築、農場整備、治水……政治的仕組みを整え、独自貨幣を作らせ……まあ、必要な事だ。

都市の魔改造はそれなりに楽しいしな。


この世界にも、週末は2日有る。

この日は、自由にして良いと言ってある。

が、訓練にあてることが多い。

エステルちゃん達と遊んだりもしているようだ。


うむ。

順調だ。

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