第43話 勇者と女風呂

>> ゴルファ


さて、どうしたものか。


「へえ、エドラちゃんは、料理ができるんだな」


「うちは、生活に余裕が無かったから……出来ることは、自分でしていた」


「貴族の中には、自分で着替えられない娘もいると聞いたけど」


「それは、嘘。貴族の令嬢が男性に性的接触させる為の常套句」


「まじか……」


なんで、魅了で正気を失った筈のエドラちゃんが、普通にローと話してるんだ?


「これだから、低俗な令嬢様は……もっと、誠実に接するべきだと思います」


「いや、お前そう言って俺に着替え手伝わせたよな」


エステルちゃんの言葉に、ローがツッコミを入れる。

そんな事があったのか。


「……ちなみに、成功率は低い。そうそう騙される人はいない」


「はい……性行しませんでした……」


エステルちゃんが項垂れる。

成功してたのでは。


「ゴルファ様は……事態の収束にどのくらいかかる?」


「ファムディア地方は広いですからね。1週間くらいでしょうか」


「いや、夕飯前には帰ってくると思うぞ」


親友よ、俺を見くびり過ぎだ。

駄犬をしつけるのに、半日も必要ない。


「勇者様、凄い……」


「魔王を倒す為の存在だからな」


魔王か。

倒した犬も、魔王の縁者だったらしいな。

どうせ復活と同時に瞬殺予定だから、興味もないが。


「魔王……あと100年は大丈夫と聞いている」


「勇者がいるし、予言も有るからな。もうすぐ復活するらしい」


「予言?」


さて。

そろそろ気づかれようかな。

全力で潜伏すると、誰も俺を認識できない。

堂々と女風呂に入っても、誰も気付かないからな。


チートスキルで強いのは良いんだが。

できない事がないので、少々つまらない。


「戻ったぞ」


「「!!?」」


不意に気配が出現したせいか。

エステルちゃんとローが、警戒の色を見せる。


ややあって。


「あ、勇者様」


君は、本当に暗殺者なのか?


「約束通り、犬は処分してきた。ところで、エドラちゃんが平気そうなのは、何故かな?」


「……そういう設定でしたね。タイミングを逃したので、どうするべきでしょうか」


困ったように、項垂れる。


「……俺の魅了スキルは相当強力な筈なんだが」


「毒無効な体質だから、効かない」


異能ユニークスキルか。


……さてどうしたものか。

魅了が効いてないとなると、約束を反故にされる可能性がある。


……反面、悪い話だけでもない。

俺の魅了スキルは、俺自身でコントロールできないものだ。

だからこそ、今まで女性にはなるべく近づかないようにしていたんだ。

魅了して自由意思を失っているよりは、自分の意思で俺に惚れ込んでくれる方が良い。


エドラちゃんは、俺のそばに来ると、跪き、


「約束は守る、勇者様。私の全てを捧げる」


「いい心がけだ」


良かった。


「おい、ゴルファ。無茶はするなよ。せっかく、お前の変な体質が効かない娘なんだから」


変な体質言うな。

これでも、自分でかなり気にしているんだからな。


「……エドラさんがご自身で選ばれたのであれば、何も言えないですね。そもそも、私ではあなたには敵いませんから」


エステルちゃんから敵意と警戒で満ちた視線。

君、俺の運命の相手なんだけどね。


「ところで勇者様、お願いがある」


エドラちゃんは、俺を見上げると、そう言った。

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