第39話 領主と卑劣漢

>> エドラ


モンスターパレードの処理の為、ダンジョンに兵を率いて向かったお父様。

そこに、モンスターパレードが発生。

それを率いていたのは……


王家派の動きは早かった。

速やかに鎮圧の為の兵を準備……ではない。

フェンリルを外に出さないため、領地の境界を封鎖。

防衛拠点の建設に着手した。


ファムディア公爵家は、暫定的に私が当主となった。

が、王都にいては指示が出せず。

王家派は、私が領主の責を果たしていないとして、統治能力の不足を喧伝している。

……実際、私には統治能力なんて、かけらもないのだけど。


いや。

今は、家の存続より、領民の方が大切だ。

王家派の対応が、封じ込めではなく、討伐兵の組織であれば。

私は喜んで、地位を放棄しただろう。


……サンドラ様であれば。

サンドラ様、エステル様、ビルギット姫。

そこに私とサーラがいれば。

サーラが傭兵団を出してくれれば。


……


フェンリルって何。

なんでそんなものが出るの。


おかしいよ……


だが。

部屋に籠もっていて良い訳がない。


「エドラさん……」


「エステル様……」


部屋の外で、エステル様が待っていて下さいました。


「今、サーラと交代したとこで……エステルさん、私達は、あなたの味方だから。協力するから。だから、一緒に頑張ろう」


「……はい。領民は……せめて、領民は助けなければ」


例えこの身はどうなっても。


「……エステル様、何でもします……何か、ないでしょうか?」


私はいつも、他人に頼ってばかり。

運は良い方だと思う。

いつも、周りが助けてくれる。


でも。


今回のこれは、流石にどうしようもない。

それでも。


「……あの方、なら」


エステル様は、鎮痛な顔で、そう告げた。


--


>> エドラ


「ここ……エステル様の別荘ですよね?」


最近は来ていなけれど。

何度か遊びに来たことはある。


「はい。今はここに、ご主人様と住んでいるんです」


ご主人様?

いつも聞きそびれる。

というか、人物?


……その人が、私を助けられるかも知れない人?


「ご主人様、いま戻りました」


「おかえりエステル……お友達か?……えっと、実は高貴な方だったり?」


「あ、いえ。私はエステル様に比べると、末席の家柄でして」


「……貴族様ですね」


……あ、うん。

平民にとっては一応そうなるよね。


「ご主人様、相談があります。中へ」


「……わかった」


中に入り。

各々自己紹介を済ませ。

エステル様が事情を説明し。


「……という訳なんですが、どうにかならないでしょうか?ある程度のお金は動かせると思うんです。冒険者ギルドの冒険者を雇うとか……」


「……いや、フェンリルだろ?S級PTでも無謀だぞ……」


……ですよねー。


「その……」


エステル様が、ローさんを、上目遣いで見て、


「……言いたい事は分かるが……アレに借りを作るのは……かといって、金で動かせるかどうか……」


「おいおい、随分失礼じゃないか?」


え。



そこに、いつの間にか、いました。

いや。


視認できるのですが。

存在を感じられません。


「ん?ああ」


あ。

今度は普通に感じられました。

何というか……普通の方?


「おい、ゴルファ。みんなの前に姿を現すなんて」


「良いんだよ。エステルちゃんは既に知ってるしな」


「……そうなのか?」


「はい、すみません、ご主人様。あ、でもでも、何もないですよ。同じ空気吸わない様に気をつけてますし、視界にも入れてません」


どういう事!?


「で、フェンリルだっけか。そんなの話をしていたな」



直感がありました。


この方は……倒せる方です。



「フェンリルを……倒せるのでしょうか?」


「ああ、朝飯前だな」


私は、ゴルファさんの目を見ると、


「助けて下さい……何でもします」


にい


ゴルファさんの口元が、歪みます。


「SSRではないが……SRってところか。良いよ。フェンリルは倒してやる……対価は……」


ゴルファさんが、私のあごを右手で掴み、


「あんただ。あんたは、一生俺の奴隷となれ。その条件を飲むなら、助けてやる」


「分かりました」


即答します。

私自身の身で済むのなら、安い物です。


「ちょ」

「おい、ゴルファ!」


エステル様とローさんが叫びますが。

足が動かないようです。


「何せ、ローの奴は、エステルちゃんと楽しくやってるからな。流石に、俺も我慢の限界だ。残念ながら、顔も体つきも、エステルちゃんより数段劣るが……それでも、顔は一級品には違いないし。それに、その歳で領主というのも良い。せいぜい、贅沢させて貰うか」


……鋭意努力は致しますが、貧乏なもので……


「君も効果を実感している最中だとは思うが。俺の身体からは、女性を魅了する成分と魔力が滲み出ている。顔は誰よりイケメンだし、スキルに恵まれているから、技量も優れ。そして」


私の下腹部に手をあて、


「俺の体液を浴びると、快楽に溺れ、二度と正気に戻れない。だから、今の自分を保てるのは、今だけだと思っておけ」


この方はどなたなのでしょうか。

淫魔さんか何かでしょうか。


「……そもそも……勇者なら、フェンリルなんて脅威が出たら、倒してくれよ!一生かかっても、何とか報酬は払うから!」


「……私、ご主人様に身を捧げたいと思っていましたが……思ってますが……それでも、我慢できません。身を捧げるなら、私が変わります」


私は、そっとゴルファさんに抱きつき、


「ゴルファ様……お慈悲を……もう、我慢できないんです」


そのまま、力なく崩れます。


「エステルちゃんが魅力的なのは確かだが……正直、ローのものに手を出すのは

、な。俺もそこまで鬼畜じゃない。俺は、これで我慢するよ」


ゴルファさんが、私に肩を貸してくれます。

私は、力強く、ゴルファさんに身体を押し付けます。

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