第36話 遊女と罠

>> マリン


花街の奥。

裏の街。

日の下を歩けない人間が、集う場所。


巧妙に誘導され、行き着いた場所は。

朽ちた倉庫。

行き止まり。


私の3倍はあろうかという巨漢の男を筆頭に。

危険な雰囲気の男が11人。


「あの……これは一体……みなさん、お顔が怖いですよ」


「顔が怖いのは生まれつきでね。なあに、ちょっとした頼まれ事があってね。お嬢ちゃん、少し付き合って貰えるかね?」


ひょろりとした老人が、ぎょろりとした目で言う。


「内容によりますが……基本的にはお断りすると思います」


「馬鹿言うな。お前は、今から天に登れる薬を沢山飲んで、沢山気持ち良い目に会うんだよ。そして、幸せなままの姿で、路地裏で発見されるのさ」


別の、剥げた男が叫びます。


「お薬は嫌いです。そんな物に頼らないといけないとは、情けなくないのですか?」


「お嬢ちゃんの好みは聞いてないからね。俺達の趣味に付き合って貰うぞ。さあ……」


ぎょろ目の男が、前に出ます。

他の男も、各々、棒やら、縄やら、構えます。


「あの……許してください……」


「恨むなとは言わねえ。まあ、今舌を噛んで死んだ方がマシかもな。死んでからなら、何をされても分からねえぜ」


巨漢の男が、下卑た笑いと共に告げる。


私は、後ずさります。


「ひひひ」


男達が、1歩、1歩と、間を詰め。


「ショックウェーブ」


ぱしいいいい


放った魔法が、無警戒だった男達を吹き飛ばす。

そのまま気絶。

精神系の制圧魔法です。


「おおおおおいい!?」


残った男が叫びます。


「む、1人残りましたね」


「……お前が王立アカデミーの上位実力者だと伝えてあった筈なんだが……くそ、気持ちが先走りやがったな……流石は、花街で上位を争う姫をやってただけはあるな……」


忌々しそうに、男が呟きます。


「後はあなただけですね。覚悟して下さい」


くくく……


男が、薄気味悪い笑みを浮かべ、


「残念だったな。俺はよぉ、保険なのさ。こいつらがやられた時の、な。クライアントはな、お前の確実な始末を望んでいるのさ」


「……若き盗賊ギルドのギルドマスター。ディックさんですか」


「……気付いたか。正解だよ。俺に油断はない。お前は……そうだな、選ばせてやろう。残念ながら、楽には死なせてやれないが……天国に行ける薬か、地獄に行ける薬か……」


「薬は嫌です……天才と言われるディックさんでも、薬に頼らないと、女1人堕とせないのですか?」


「……言ってくれるな、女ぁ。俺が今の地位に上り詰めたのは、当然、誰にも負けねえ技を持ってるんだよ。良いだろう、薬なんて使わずに、天国に登らせてやるよ」


「その勝負、姫としてお受けしますわ」


私は、ディックさんを、強い視線で睨みつけます。

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