第34話 暗殺者と交渉

>> エドラ


「個人の事情の開示をする訳にはいきません。お引取り願います」


校長は、丁寧に、そう述べた。


「少しで良いんです。お願いします」


「一切、話す事はできません」


強い。

校長は、緩やかに首を振る。

この3人を相手にきっぱりと断るとは。

さすが、王立アカデミーを任される者。


「あの……マリンさんのお父様、ですよね。退学の指示は」


サーラさんが、おずおずと口を挟む。


「サ……サーラさん……そ……そのですね、その……個人の情報を開示……する訳には……まいりませんで……」


「そういえば、先日の船遊び。大変楽しんで頂けたそうで」


「は、はい。そ、そのですね。は、はい」


きょろきょろ、と、周囲を見回しつつ、サーラの顔を伺う。

……ああ、そうか。

多額の寄付をしているラスムスには、頭が上がらないんだっけ。

その妻であるサーラに対しては、相当腰が。

今話しているのは、おそらく、ばれるとやばい感じの接待か何かの話しだろう。


「昨日、マリンさんのお父様が来られたのですか?激怒されていたでしょうし、大変だったでしょう?」


「いえ、大変という事は。当然、紳士的な方ですので……はい」


昨日、マリンさんの父親が来た事を認めた。


「でもでも。何も退学までしなくても良かったのではないでしょうか?」


「しかしですね、サーラさん。やはり、学園の名を貶めたと言いますか……娼婦の真似事など、許される事では有りません。バルトサール様としても、お怒りは当然と思われまして……」


ほぼ喋ってる。

想像は当たっているみたい。


「マリンさん、無事なのでしょうか?」


「……その……やはり体面というのは大切でして……その……国外追放であれば、まだマシかと」


自裁させる。

それが、妥当な線。

もしくは、暗殺され、自殺したと公表、か。


「分かりました。ありがとうございます」


サーラさんは、校長へと微笑みかける。

眩しい笑顔。


「は、はい。恐縮です」


校長、滝汗。

エステル様とビルギット姫は苦笑しているが。

サンドラ様は明らかに怒っている。

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