第33話 暗殺者と違和感

>> エドラ


「それで、話とは」


自分にだけ打ち明ける、話。

それがどんなものでも、自分は力になろう。


結婚は、済んでしまった。


それでも。

まだ、助けられる。


信じ続ければ。


「はい、エドラ様の家への援助の件なのですが」


……!?


ああ。

もう援助ができない、という事だろう。

それは、分かり切った事だ。


サーラは。

王家側の商人となったのだから。


「今後は、私が引き継ぎます。ラスムスさんにも助言は頂きますが、基本的には自由に動いて良いと言って下さっています」


「……えっと、ラスムスは王家派の主力の支援勢力だよね?」


「今後は、王家とは距離を置いて下さるそうです」


「ええ……?」


「王家より私の方が大切だそうです」


サーラが嬉しそうに言う。

……あれ。

これ、本当に、うまくいっているのでは?


「ただ」


サーラが、私をじっと見て、


「今後は、自立を促す事を重視して、援助方法を考えようと思います。同時に、こちらにも利益が出る様な形で。ただ単純にお金を配るだけでは、援助される方にとっても良くないので」


すっと目を閉じ、


「私も、もっと色々考え、がんばりますが……最初は、ラスムスさんに採点して貰いながら」


「……分かった。お願い。そして、こちらでできる事は言ってほしい」


そもそも、エステル様が異能ユニークスキルで看破しておられるのだ。

サーラは、嘘は言っていない。


援助が続く事より。

サーラが幸せになった様なのが、何よりも嬉しかった。


--


>> エドラ


朝。


登園すると、違和感を感じた。

何というか……空気が、ざわついている。


自分が暗殺者だから感じるのだろうか。

いや。

他の学生も、何やら話している。


これがエステル様やサンドラ様であれば、使い魔を飛ばして様子を探るのだけど。

あいにく、暗殺者たる自分には、情報収集の能力では他職に劣る。


これがサーラさんなら、話しかけて情報収集を行うのだけど。

暗殺者たる自分には、他者と話す能力などない。


そう。


サーラさん達に聞こう。

それが一番だ。


教室に入る。

エステル様が、冷気を纏っておられる。

相当機嫌が悪い。

エステル様に聞く線は消えた。


まあ、最初から選択肢は限られている。

サーラさんに……


いや、サーラさんは絶賛、情報収集の最中。

エステル様にけしかけられているのだろう。


だとすると。

サンドラ様、かな?


「サーラさん!」


「ビルギット姫、おはようございます」


「はい、おはようです。大変なんですよぅ」


違うんですよ。

ビルギット姫が頼り無さそうだから選択肢から外していたんじゃないんです。

単純に、身分が上だから恐れ多いとか、きっとそういう遠慮がですね。


「何があったのでしょうか?朝から騒がしいようですが」


「むむむ!流石暗殺者ですね!そこに気づくとは」


「ま、まあ、暗殺者ですから、当然ですね」


暗殺者たるもの、些細な雰囲気の変化すら感じ取れるのです。


「実は……マリンさんが、退学になったんです!」


「……マリン様が!?なぜ……?」


何故……


「それだけじゃありません。マリンさんは、勘当されたらしくて……」


「そんな……」


昨日まで普通に学園に通っていたのに。

勘当とか、退学とか。

理由が……


……あー。


「……ばれたのでしょうか?」


「おそらく」


ビルギット姫が、残念そうに頷く。


マリン様は、こっそり、夜の商売をしていました。

そこそこの地位のある貴族なので、当然、家にとって醜聞となります。

勘当は当然ですね。


また、王立アカデミーは、上位貴族が軒並み通う場所。

男女交際すら、かなり厳しく目が光らされています。

ましてや、その学生が夜の商売をしていたなど……学園として許容できる訳がありません。


学友ではあっても、掴みどころのない方で、交流は殆どありませんでした。

それは、ビルギット姫達も同様……だと思ったのですが。

エステル様が、荒れておられます。

サンドラ様が、なだめておられます。


「エステルさんはぁ、マリンさんと特別に仲が良かったのでぇ。心配みたいですねぇ」


「……そんなに交流が深かったのですね。そこまで接点がないと思っていましたが」


「ご主人様繋がりで、かなり親近感を持っていたようですぅ」


「ご主人様……?」


確か、流れたフェンリル討伐の時に、探索支援を頼んでいた方でしたっけ。

冒険者の方でしょうか。

というか、ご主人様ってどういう意味でしょうか?

文字通りのエステル様のご主人様という訳では無いと思いますし。

結婚もされてないですよね。

誰なんでしょうか……


「エステル様……やはり、誰も知らないようですね」


「……退学の理由は、あの事でしょうけど……いったい、どこから漏れたのでしょうか」


エステル様の問いに、


「……いやあ……顔も隠さず、名前も隠さずでやってて、むしろ今までばれなかった事の方が不思議で仕方ないんだが……」


サンドラ様が困ったように言う。

もはや、ばれるのを待っているに等しいじゃないですか。

マリン様にも色々あったのかも知れません……


「こうなったら、校長に聞きましょう」


エステル様が宣言。

……まあ、エステル様、サンドラ様、ビルギット姫。

この3人がいれば、校長も口を開くしかないと思います。

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