第32話 氷女神と異能

>> エステル


昨日は一晩泣き明かしました。

ご主人様も付き合って下さって。


エドラさんも、サンドラ様も、落ち込んでおられて。

ビルギット姫が、ご友人と談笑しておられるのが、遠い世界の様に思えます。


「素材の味ですかぁ。王宮でもななかなお目にかかれなさそうです……流石、この国一番の商人ですねぇ」


「はい。お金の使い方が上手いですね。能力に応えるだけの報酬を支払うからこそ、みんなついてくるのだと思います」


ビルギット姫と話しているのは、サーラさん。


……あれ。


「サーラさん!?」


「は、はい?」


「え、サーラさん!?」

「んん?」


エドラさんと、サンドラ様も、驚いてこちらを見ます。


「サーラ、大丈夫なの!?学園に来れるの!?」


「は、はい。結婚したと言っても、まだ学生ですし、学園には通う予定です」


「……いや、ラスムスの奴が、登園を許可したのか?」


「えっと、許可も何も、そもそも禁止する理由もないですよね?確かに、後継者として、学ぶ事は多いですが……学園で学ぶ事も貴重な経験だと仰ってましたし」


話が噛み合わない。


「サーラさん、大丈夫なのですか?ラスムスに、変な事をされてないのですか?」


「え、へ、変な事って……いや、へ、変な事じゃないですよ?」


サーラさんが、真っ赤になって、ぱたぱた手を振る。

……されてる!


「サーラさん、正直に答えて……ラスムスからの助けが必要、ですよね?」


「え、いいえ?」


サーラさんが首を振る。


「正直に言って下さい」


「……えっと、エステル様、相手の虚偽を見抜く異能ユニークスキル持っておられましたよね……?嘘ではないと分かる筈ですが……」


サーラさんが、困惑した様な声を出す。

確かに、サーラさんは嘘を言っている感じがしない。

が。


「私はちょっと人より感覚が鋭いだけで、異能ユニークスキルなんて持ってないですよ。異能ユニークスキルなんて、ほぼ、おとぎ話の中の存在です」


身近に異能ユニークスキル持ちが2人……勇者様を含めたら3人いますが。


「確かにサーラさんが嘘をついている気はしないですが……それはきっと、サーラさんの演技力の賜物か、もしくは洗脳……」


「ラスムス……許さない」


「あの……本当に違うので、勘弁して下さい……」


サーラさんが困った様な声を出す。

……おかしい。

何があったのだろうか?


「エドラ様。後で、寮に向かいますね。部屋を引き払わないといけないですし……それに、お話したい事もあるので」


「……聞く」


真剣な顔で、エドラさんが頷く。

……やはり何かあるのでしょうか。


後でエドラさんに聞くようにしましょう。

……その前に。


--


>> エステル


「マリンさん」


「エステル様。どうかされましたか?」


「サーラさんの様子が変なんです。何か知りませんか?」


「……変、ですか?浮かれた、幸せそうな新婚さんにしか見えませんが……」


「あのラスムスと結婚させられて……幸せな筈がないでしょう!」


「あの、エステル様やサンドラ様は縁が無さそうですが……普通、貴族の娘となれば、家の為に、他の家と縁を結ぶ為の道具となる覚悟をするものだと思うのですが。サンドラさんは貴族では有りませんが、裕福な商家。誰と結婚しようと、ある程度は受け入れると思いますよ?」


「限度があると思います。相手は老人じゃないですか」


「条件も良いと思いますが。彼自身も、悪くないと思いますよ。サーラさんに惚れ込んでいましたし。それにあの方、歳の割にお元気で、かなりの技巧派なので、満足できると思いますよ」


……まるで、そういう事をした事があるような言い方ですが。

本当にあるような気もするので、つっこむのはやめておきます。


「だいたい、本人に聞けば良いのではないですか。エステル様は、相手の嘘が分かる異能ユニークスキル持ちですよね」


「……何で皆さん、私を異能ユニークスキル持ちにするのでしょうか……」


異能ユニークスキルなんて持ってないです……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る